その9 ウミガメを守ろう!!【その1】



2003年6月・夏至の週末 インドで出会った友達ユキさんから、 「海亀の産卵を観に浜松へ行こう」と誘われた。
もちろん即答でOKした。ぜひ見てみたい!!
でも、まさか日本で見られるとは思わなかった。

土曜日の朝にユキさんとその友達のトモミさんの二人を拾って、東名高速を西へ走る。
最近ずっと空梅雨続きだったのに、この年だけは珍しく本格的な梅雨だった。
しかも寄りによっていつも週末になると雨ばっかりだったのだが、この日だけはまるで中休みのように気持ちよく晴れた。
サングラスをかけて運転。このお天気で、当然3人とも上機嫌だ。

浜松駅からまっすぐ南に走ると、太平洋にぶつかる。
そこが海亀の産卵地である中田島砂丘だ。

今日の深夜から明日の早朝にかけてこの浜を見回り、海亀が卵を産んでいたら孵化場に保護し、夏開けに孵った子亀を海に放流するのが活動内容だ。

主催者である環境ボランティア団体のメンバー達20人と合流し、簡単な自己紹介の後にまずは備品倉庫の片づけ。

卵の保護箱や柵などの古い木材や鉄屑を捨てられる大きさに切る作業。
始めは楽だったが、照りつける太陽の下でどんどん汗が噴き出してくる。
それでも大人数で力を合わせてやっていたら、目に見えて倉庫の中身は減っていった。
汗を流す労働って、単純に気持ちいい!病みつきになりそうだ。
不思議と洗車や部屋の片づけでは燃えないのだが、みんなで力を合わせている楽しさもあるのだろう。

今回、持ってくるように言われたのは米一合と寝袋だったので、僕はてっきり今夜の寝場所を確保するために片づけるんだと思っていたのだが、それは別にちゃんとあるらしい。

倉庫には海亀の生態や亀の保護について書かれた看板があった。
確かに、ここに亀が産卵に来るなんて知らない人は多いだろう。

2時間ほどの作業で倉庫内が一応片づき、木材や鉄屑を軽トラックに積んで小休止。

日陰で冷たいお茶を飲んでいたら、頭上にあるツバメの巣に親鳥が餌をくわえてやって来た。
巣からは大きな口を開けたヒナたちが顔を出し、餌をねだる。

一息ついた僕たちは車に乗って、さっき見たような看板の保全作業のため砂浜に行く。
松の防砂林を抜けると、広々とした砂浜に出た。乳白色の砂と水色の海。
そして、その中間色の空。今までに見たどんな海とも違う、古い夢の中のような光景だ。

海亀の足跡を見せてもらった。
中央に腹の跡。両側にキャタピラのような足跡。横から見ると分からないが、海側に回って後ろから全体を見渡すと、規則的に足を運ぶ海亀の姿が想像できる。

海亀の孵化場は砂浜の一角を金網で囲んだもので、中に入るといくつも砂が盛り上がった
部分があり、卵の個数と大きさ・日付の書かれた板が挿してある。

こうして保護された卵は夏に孵化するので、8月から9月にかけて海に放流するのだ。
砂に打ち込んだ看板の杭を直して、針金で看板を固定する。
作業が終わると、僕たちは全員で波打ち際に走り、靴を脱ぎ捨てて海に足を踏み入れた。

最近は湘南の海にしか行っていない僕にとって、ゴミもなく左右どこまでも続くここの浜辺はまるで別世界だ。透明な海水の美しさに見とれていたら、不意に大きな波が襲ってきて僕は下半身ずぶ濡れになってしまった。ジーンズもTシャツもビッショリ。でも気持ちいい!

僕たちは大はしゃぎで波と戯れた。

やがて他のメンバーが作業を終えて合流して来たので、海亀保護センターに戻る。 今度はセンター植え込みの手入れ。

保護活動はこのセンターの喫茶店とお土産の売り上げによっても賄われているので、花の植え替え作業も間接的ではあるが海亀の保護につながるのだ。

ブルーシートを敷いてプランターの中の古い土をあけ、小石や根っこを取り除いて新しい培養土と混ぜる。空になったプランターに小石を並べ、花の苗を置いて土をかぶせて完成。

簡単なようだが全部で20個ほどもあり、中にはアリや蛞蝓(←興味のある人は調べてください。無い人は読み飛ばしたほうが無難)がイッパイ巣食っているプランターもあり、時折り「ぎゃあ!」という声が聞こえた。

僕は将来、木製デッキのある家を作って、そこで夕涼みをしたりビールを飲んだりしようと目論んでいる。
そこには当然、花や野菜の苗を植えたいと思っていたのだが、ガーデニングもなかなか甘くはないようだ。

ようやく全てのプランターの植え替えが終わる。 汗だくになったが、ものすごい充実感だ。
だんだん日が傾いてきて、宿舎に移動。
途中浜松駅に寄り、アメリカ人の高校英会話講師、C君を拾う。
彼もパトロールに参加するために来たのだ。

今夜は、海亀保護を行っている自然保護団体の施設に泊めてもらう。海岸から10分ほどの倉庫のように大きい建物で、中には畳敷きの居間があり、自転車や三脚などの機材が置いてある。
僕はてっきり今日片付けた資材庫に寝ると思っていたので、この施設にはびっくりした。

ありがたい話だ。 みんなで日帰り温泉に行く。
一日中汗をかき通しだったので、これまたありがたい。

風呂に入れるとも思っていなかった。C君にとってはまだ珍しい体験らしく、とても楽しがっていた。

湯上りビールの誘惑と戦いつつ宿舎に戻ると、食事班の皆さんの手によるカレーの良い匂いがした。
お昼に回収したお米が炊き上がっている。 まるで、子供のころの夏休みのような夕暮れだ。
別の街に泊まり、いとこ達とさんざん遊んだ後で家に帰ったらご飯が出来ているあの感じを思い出した。

食事の間にパトロールの班分けが行われた。
午前1時から5時にかけて、4チーム×2km×前後半(延べ16km)。僕の班は後半の担当だ。

待ちに待ったビールを飲み、カレーをいただく。どちらも美味い!
一日の労働と新しい仲間との出会いとが最高のスパイスになっている。
昨日のパトロールの様子を、デジカメで見せてもらう。

何と、卵を産んでいる真後ろまでメンバーが近づいて観察していた。
「亀は後ろが見えないんです。ただしアゴの力が強いから決して前から近づいてはいけません。美味しそうな指はガブッとやられますよ。」と主催者の方が教えてくれた。

楽しくてついつい遅くまで語ってしまったが、深夜1時に起床で僕はドライバーなので、就寝。
結局、月山に引き続き車の中で寝た。


ウミガメ保護を呼びかける看板を修理し終わり、
充実の表情。


ウミガメの卵を夏の間保護しておく場所です。


黄色い立て札には、産卵日・個数などのデータが
書かれています。


右から「孵化したばかりの子ガメ」
「殻を割り孵化し始める。隙間が出来て動き出す」
「みんなが孵化し終わるといっせいに頭上の砂をかき落とす」
「崩した砂を足場にして、上に上にあがって
地上に這い出してくる」


共同作業中の一枚。



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