外はまだ暗い。同室のみんなは、平和に寝息を立てている。 ひんやりした森を抜け、僕はジャケットに身を包んで街へと歩く。幸い朝早くから開いている店があり、水を調達することができた。 海の方から日が昇り、遠くにSt. Michael mountの姿が見えた。今日も良い天気になりそうだ。 コーヒーを買って、車内で朝食。予約した席は後ろ向きで狭かったので、札のないボックス席を探して座る。この便はグラスゴーまで行く。長旅である。 通勤する母親を、制服の小学生姉弟がホームから見送っている。 定刻に列車が動き出すと二人は走り、母親は笑顔で手を振った。 だんだん明るくなってきた。 僕は旅程を練る。僕は湖水地方の後の行き先を、大学の街リーズに決めた。 読書がはかどる。持ってきたのはシドニィ・シェルダンの「私は別人」だが、一気に4分の3くらい読んでしまった。この手の本は旅行には打って付けである。飽きないし頭が疲れないし、捨てられる。 あっと言う間に3時を過ぎ、オクセンホルム駅で乗り換え。 何人かの日本人バックパッカーがロンドン行きを待っている。この時刻からだと、到着は夜遅くになるだろう。 ここに来る前、列車はLancasterに停まった。僕のスバル車の名前は、風光明媚なここの地名にちなんでつけられたと言う。 丘の上に城が建ち、河が流れ、牧草地に囲まれたなかなか素敵なところだ。いつかまたここに来てみよう。 乗り換え駅から2両編成の支線が、湖水地方のウィンダミアへ向かって走る。 駅前には、YHからの古いワンボックスが迎えに来てくれていた。乗客は僕一人。 緑の中を少し走ると、広い湖が見え始めた。 午後の日差しを受け、息を呑むほど美しく輝いている。湖の上にはヨットやボートが浮かんでいて、カモメや野鳥が泳いでいる。なんて美しい湖だろう。僕はかつてこんな景色を見たことがない。 YHはそんな湖畔に堂々と建つ大きなもので、もとはホテルであったらしい。 今までで一番綺麗だ。すぐ目の前には湖があり、芝生やベンチで人々は安らいでいる。 高校の時は大きな街から大きな街へ双六のように旅してしまったが、ある程度欲が無くなって始めてみられるものもあると実感した。 一週間くらいの旅では、とてもここまでは来られなかっただろう。 静かだ。ヨットが音もなく湖面を横切って行く。 荷物を置いて身軽になった僕は、アンブルサイドの街まで歩いてみた。石塀の牧草地で牛や羊が草を食んでいる。 小さいホテルが軒を連ねている。どの建物も古くて綺麗だ。アンブルサイドの街は意外に賑わっていた。いくつかのB&Bは満室である。 夜の食糧を買いに来たのだが、昼食にパンを一つ食べただけだったので腹が減り、僕は音を上げてフィッシュ&チップスを食べた。店のカウンターにピックルド・エッグ(卵の酢漬け)があった。どうせとんでもない味なんだろうと思って食べてみると、これが案外さっぱりしていてうまかった。毎日食べたい味ではないが。 ブラック・プディングもある。珍しいので注文したが、筆箱のように大きい上に単調な味であっと言う間に飽きた。 湖を臨む公園のテーブルで、先ほどのフィッシュを食べる。夕方6時を過ぎた。そろそろ日が暮れる。 YHに戻って翌日のDerwent water YHに予約を入れる。 イギリスのYH同士はオンラインでつながっており、ベッドの空き状況も分かるしここで宿泊代を払ってしまうこともできる。だから、電話をかける必要もないしイタリアのようにダメモトで足を運んで満室で断られることもない。 僕のような旅人にとっては、非常に助かる。 YHのカフェで紅茶を買って前庭に座る。 今まさに、日は湖の向こうに沈もうとしている。 ここにカヌーを持ってきたら楽しかっただろうなと、ふと思った。 実際、屋根にカヌーを積んだ車も見かけた。 ふと見ると、湖の写真を撮っている日本人女性が居た。 僕と似た黒いジャケットを着ていて、名前はユキコさんという。 「夕食がまだなんだけどこの辺お店がないのね」というので、一緒にすぐ近くのパブに行った。 彼女はチップスなどの軽い一皿を注文したが、僕はアンブルサイドで食べたブラック・プディングがまだ腹に残っておりビールだけ飲んだ。 いかにもイギリスの田舎らしいパブで、地元の青年で賑わっていた。 YHに戻り、それぞれの部屋へ。 夜になった。 僕は例によってウィスキーの小瓶をポケットに入れ、湖を臨むベンチに座って空と湖面を眺めた。 今夜、星はあまり見えない。 |
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アンブルサイドYHの前で、湖を望む。 ボートやヨットに鴨が行き交う。 平和で静かな夕暮れです。 |
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湖に浮かぶ船上から撮ったYHの姿。 何とも素敵ですね。 綺麗で広々としていて、 本当に良い宿でした。 |
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この日はまだ予定してませんが、 翌日は湖水地方らしい 田舎を散歩する事になります。 一面の牧草地にに羊、 湖に森と楽しい道でした。 |