1997年 2月16日(日) アッシジ:曇り/晴れ ペルージャ:晴れ
オルヴィエートへ行こうと思ったが、日曜でロクに店も開いていないだろうし、
道中にはペルージャという魅力的な街があったので、今日はそこへ行く事にした。
雨はまだぱらついているが、もう過ぎ去ろうとしている気配がある。
遠くに晴れ間が見えている。
あっと言う間にペルージャに着く。
こっちは晴れているが、その分気温が低い。
駅前はアッシジより断然開けているが、丘の上には中世の雰囲気がある街並みが見える。
30分間バスを待って丘を上り、街に着く。
中世に栄えたイタリア郊外の街は、当時の防衛の都合上こんな丘の上にあるのだ。
街におり立って見下ろすと、眼下の景色が見事だ。
こんなに近い街なのに、アッシジとはまるで違う。シエナとも違う。
州都だけあってすこし開けている。
でも細かい坂道を上り下りすると、昔ながらの小径があり、いい雰囲気だ。
しかし寒い。風邪がごうごうと吹きすさぶ。
大きいバックパックを背負った僕は右へ左へ揺さぶられる。
仕方なく最初に金額をたずねたホテル(4万5千リラ)に泊まることにして、
レストランが開く時刻を待つ。
部屋はなぜかトリプルルームだったが、昨日のホテルの方が断然綺麗で暖かく、
雰囲気もいい。窓の外には『天空の城ラピュタ』みたいな谷と煉瓦の家々、煙突。
シエナのような深い緑の窓が見える。
昼食をとりに出かけるが大ハズレ。ルッコラのピッツァは何の味もせず、
ワインで無理矢理流し込んだが、半分しか食べられなかった。
風は全く衰えていない。宿さえ取っていなかったらすぐにでもアッシジに帰りたいが、
そうも行かない。
ドゥオーモの階段が日だまりになっていて、皆そこに腰を下ろして休んでいるので、
僕もそうする事にした。日差しだけはやけに強く、雲一つない空から容赦なく照りつけている。
でも寒い。一番つらい天候だ。
皆、何をするでもなく座り込み、時はただ流れていく。
冬の旅で一番つらいのは、こういう時だ。
街も寒い、宿も寒い、日曜日で入る店も行きたい場所もない。でも動く事ができない。
紀元前3世紀に作られたというエトルリア門を見に行った。坂を下りて日陰に入ると本当に寒い。
門は2300年も前に造られたものとは思えないほどどっしりと大きく、しかもこの街の
一部と化していて、言われなければこれが本当にそんな昔のものだとは思えなかったと思う。
またドゥオーモ広場に戻って日なたぼっこ。街が静かなのが救いだ。
一番うるさいのが鳩の鳴き声である。
日はさっきより西に傾いている。 夕食までには5時間以上ある。
こんな日曜日は本当にやることがないのだ。
幸い眠気を感じたので、宿に戻って昼寝。案外よく眠る。
起きてしばらくすると、部屋の寒さが身に浸みた。
トリプルでただっ広く、ヒーターは入ってなくて外気温が低いのだ。寒くないわけがない。
宿のおばさんに頼んでヒーターを入れてもらう。
こんな寒いと考え事も読書も旅行計画もなにもできない。ただ寒いとしか考えられないのだ。
ようやく温まり始めたオイルヒーターの前に座る。
ただ暖かいというだけで、人はずいぶん幸せな気持ちになれるものだ。
さっきまで凍てついていた僕の心が穏やかになっていくのが分かる。
寒風に閉じ込められたホテルで何もする事のないこの時間も、
大切な休息のように思えてくるから不思議だ。
しばらくするとヒーターは弱まり、再び寒さが襲ってきた。廊下の方が全然暖かい。
明日どんな宿に泊まる事になったとしても、ここよりはマシだろうと思う。
間の悪い事に昼寝をしたので、しばらく眠れそうにない。
布団にくるまって「遠い太鼓」を読む。
僕はペルージャという街にあまり良い印象は持てなかったけれど、
これは単に気候とホテルのせいだと思う。夏に来たらきっと楽しくて美しいところだろう。
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