1994年 9月 21日(水)
パリ:

割と良く眠って8時半に目覚める。
ヨーロッパ大陸最後の朝だ。

10時に松本君とオペラ座の前で待ち合わせ。
いつもなら池袋駅あたりなのに、何だか不思議なものだ。

僕達はジャストについて、彼は少し遅れた。
フード付きのパーカーを着て走ってくる。
しばらくのパリ暮らしですっかりかぶれており、
「Bonjour!」などとと言って手を差し出してきた。笑って握手。
なぜかとても嬉しく思えた。
こんな地球の裏側で待ち合わせだなんて。

ガルニエ・オペラ座を見学。
ウィーンより豪華で凝っている。
客席天井画は、何と僕の好きなシャガールの絵で驚いた。
天馬や天使が舞う。
ミケランジェロに比べると、まるで幼児のクレヨン画のようだが、不思議と「ああ、パリに居るんだなあ」と実感した。

美術館アレルギーも直ってきたのでオランジュリー美術館へ。

ルノアール、セザンヌなどの「良い子」系の絵だけでなく、僕の好きなピカソ・マティス・モディリアーニの絵も並ぶ。

地下には「モネの間」があり、緩やかな楕円を描く部屋の壁360度がモネの「睡蓮」。
驚いたが、何だかありがたみがない。

この前は休館中だったオルセー美術館へ。
駅舎を改造したとあって、中はずいぶん広い。
ホーム特有の鯨の肋骨のような屋根。

僕の好きな画家としてはルソー、スーラ、ロートレックの画集で見ただけの作品が並ぶ。一度に見られるなんて夢のようだ。

美術館の外では騎馬警官隊が歩いていた。

ピザで昼食。白ワインに酔う。

凱旋門に向かってシャンゼリゼを歩く。
途中、アジア系のVIPの乗った車が数十台の白バイに囲まれて通る。あとで写真を見て気づいたのだがネパールの国旗が並んでいたので、王族でも来ていたのかも知れない。

松本がマロニエの実を拾う。丸っこい栗の実のようだ。

期待通り堂々とした凱旋門の遥か向こうに、鉄とガラスで出来た「新・凱旋門」が見えた。でかい。
逆側にはチュイルリ公園、コンコルド広場からルーブル美術館まで見渡せる。この道がパリの背骨なのだろう。

エッフェル塔へ。前庭は公園になっていて綺麗だ。

一番パリらしい場所のパリらしい季節なのだろう。
搭はシックな色で細部のデザインに凝った東京タワーを思わせる。
もっともこっちが元祖だが。

松本は高い所が苦手なのでイヤがるが、無理やりエレベーターに乗る。付け根から上るので、ナナメに進む。
割と揺れるし東京タワーと違って下には何もないから僕でも怖い。

乗り換えて一気に最上階へ。
300mの高さの「先っちょ」まで登れる。
もうパリ市街どころかはるか遠い山々や地平線が一望。
これはさすがに怖い。
搭先端の少し広く出っ張った部分では下に鉄骨もなく車はミニカーにも見えない。通信搭らしく、アンテナだらけ。
少し揺れているような気がする。とても寒い。
エッフェルとエジソンの蝋人形があった。ここで密談でもしていたのだろうか。

ここがパリ最後の目的地だ。

西を向くと、まるで映画のフィルムのように今までに訪れた国々の風景が頭の中を巡った。
何万kmと日本から離れたこの地で、また何千kmも列車を乗り継いで再びここに戻ってきた。

何と言っても結局はただの旅行だからその行為自体が果たした役割は殆どない。
でも、ヨーロッパ一周という目標が達成できて、思った以上に成長できたような気がする。
高いエッフェル塔に登って偉そうな気分になって居るだけかも知れないけど。

空気は張り詰め、風は冷たい。
汗をかいてパリを歩き回った8月の終わりの日を思うと、ずいぶん長い旅だったのだろう。もう次の季節になってしまったのだから。

旅はもうすぐ、終わろうとしているのだ。

ソルボンヌ大学の方まで歩いて夕方の町をぶらつく。

もう明日はロンドンだ。
もう少しフランスを歩いてみたかったような気もするが、またいつかの楽しみにとっておくのも悪くはない。

松本と三人でクスクス・ロワイヤルを食べる。羊・鳥・牛などなど、いろいろ盛られていて美味い。
クスクスは腹の中で膨れる。
大食いが自慢の僕でも、やっぱり全部は食べられなかった。

シャンパン(実はどこかのスパークリングワイン)をあけて、パリ最後の夜を祝う。

宿に戻り、ぐっすりと深く深く眠る。


オペラ座客席の、
シャガールによる天井画。

天使が舞う。


オペラ座中央階段。
桟敷席への扉が並ぶ。

 
エッフェル搭前にて。



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