2月22日(土)タオルミーナ:晴れ ナポリ:晴れ 明け方になってようやく再び眠りについた。 荷物をたたんで出発。列車内で食べる食料を買い出そうかと思ったが、時間がないのでバス停に直行する。このバスを逃すと、次のでは列車に間に合うかどうかかなり怪しいのだ。 バスの乗客は殆どアメリカ人観光客だった。 耳にはいる事場が英語なので少しホッとする。 駅でパウンドケーキを食べる。これがあまり甘くなくて美味い。イタリアの菓子(ドルチェ)はどれも甘さがきついので殆ど食べなかったが、偏見だったのかも知れない。 いい天気だ。ホームの向こうはすぐ海である。 そう言えばバスの車窓からは煙を噴くエトナ山がはっきりと見えた。 乗り込んでしばらくすると検札。車掌が「チケット、明日までだね。」と言ってくれた。そうか。もう1ヶ月、旅をしているんだな。 すると客室の人達が「そのチケット、何?」とひとしきり話題になった。イタリア・レイルカードは外国人にのみ発券されるから、イタリア人は知らないのだ。 「これいいねえ」「どこで買ったの?」「いくらするの?」とみんな興味津々だ。車掌も忙しいのにチケットについて一から説明している。面白い国だ。 メッシーナ中央駅についてしばらく列車が動かない。何かと思ったら車両をフェリーに積んでいるところだった。これは産まれて初めて見た。 前方にぱっくり口を開いたフェリーが浮かんでいて、2〜3両ずつに切り離された列車が呑み込まれて行くのだ。ちょっと後退したりもするが、その作業がいとも簡単にひょいひょいと進められて行く様は楽しかった。 船の中に入った列車の窓から外を見ると、暗い船倉内を歩いている旅客がいたので僕も降りてみた。 ステップを上がると、デッキに出る事が出来た。 港の中なのに、海は青い。 船首の方にはシチリアの港・街・山が見え、海の向こうにはイタリア本土が見えている。船が出港すると、風が強くなったのを感じた。 船内にはラウンジやバールなどがあり、日本の女の子が二人コーヒーを飲んでいた。 船首は駐車場になっていて、二台の車から降りた家族がくつろいでいた。 またさっきの女の子二人を見たので、挨拶してみる。 二人とも同い年で、僕の高校の近くにある音大の学生だった。カヨコさんとジュンコさん。その街の安食堂の話なんかをしていると、凄く日本が懐かしく思えてきた。 二人ともナポリまでの切符を買ったが、怖い評判を聞く街なのでこのままローマに行ってウィーンまで飛ぼうと今決めたと言っていたが、僕がしばらくナポリにいるので、3人一緒なら降りてみても良いという話になった。 本土の港に着いたので、ナポリ到着後に落ち合う事にしてそれぞれの車両に乗る。 道連れは嬉しいものだ。こんな僕だって、一人ではつまらないと思った事は山ほどあるのだ。 客室にいると、さっきのカヨコさんが来て、自分たちの部屋に呼んでくれた。有り難い。僕もこの先6時間じっと座って本を読んでいるのはつらい。 3人でいろいろ話したり、パンとチーズを食べたりしていると、ナポリまではあっという間だった。 本土は海の色が少し緑色がかっていて濃い。 ナポリ中央駅は巨大で、駅前のうるささは今までで一番だ。車の騒音はローマよりひどい。全体的に色の黒い人が多く(僕も黒いけど)道には怪しい物売りがいっぱい居る。建物は薄汚れていて、けばけばしい広告の類も多い。ジェノヴァによく似ている。 『地球の歩き方』に出ているホテルに行く。やけに愛想のいいインチキ臭い親父がやたら高い料金を請求するので、部屋に貼られた料金表を見ると1万リラ以上高く言われていた。 冗談じゃないと文句を言うと、親父は日本のパスポートを見せて「他の日本人はみんな文句を言わずに泊まっているぞ」とワケの分からない言い訳をする。 僕とカヨコさんは強気で抗議する。僕はホテルを替えるからサインした紙とパスポートを帰せと迫る。 かなり長く続いた攻防戦の結果、やっと僕たちは解放された。 この時になって、僕たちの間には不思議な連帯感が芽生えていた。 「何だか、怒ったら腹が減ったね。」 「でもスッキリしたね。」 「こういうのもナポリ名物だね。」と僕たちは笑う。 すると、後ろからあのインチキ親父が追いかけてきた。何かと思ったら、僕が部屋に置き忘れた洗面用具入れをわざわざ届けてくれたのだ。高額のふっかけもこんな優しさも、ナポリ人の気質なのだろう。 別のホテルに替え、それぞれの部屋に荷物を置いて駅のインフォメーション・オフィスに行く。係の親父はかなりインチキな日本語で僕たちを歓迎してくれた。 二人は週末割引で明日のローマ発ウィーン行きの飛行機を取ろうとしていたが、なかなかうまく行かない。 日が暮れたのでピッツァを求めて歩く。ナポリの街は割と怖いが、二人が言うにはパレルモはこんなものじゃないらしい。 でも二人は僕がいるから安心、僕は二人がいるから安心だ。 だから結構こみ入った下町まで足を踏み入れる。八百屋や商店が軒を連ね、人々は大声で話し、バイクの騒音は夜になっても止む気配すら見えない。 多分一人では来なかったと思うが、こういうのは実に面白い。 たまたま入ったピッツェリアが美味い。 椅子もテーブルもチャチだが、竃だけは本物だ。トマトの味が日本とは全然違う。 僕たちは偶然の出会いとインチキホテル脱出を祝って乾杯した。 水と一緒にレモンチェッロを買ってホテルに戻り、早速試してみる。甘みと苦味が強い。お酒だという事を初めて知った。 シャワーは熱湯か冷水というパターンだが、何とか浴びられた。 気に入って買ったシチリアワイン(Lolunto)を僕の部屋で飲み、遅くまで話す。 この度を通じて誰かと酒を飲み交わすのはシエナ以来だったので、とてもとても楽しかった。 ワインはやけに美味い。適当に買った800円くらいの普通のものなのだが、僕が一番欲しかった味。すっきり辛口で葡萄の味がする。 甘いワインの名産地マルサラの酒なので甘くないかと心配していたが、きりっとしていて全然そんな事なかった。 今日は移動日なのですごい退屈を予想していたのだが、やっぱり旅は何が起こるか分からない。 ナポリという、きつい街に着いたにも関わらずとても良い一日だった。 明日はカプリ島に行き、「青の洞窟」を見る事にして就寝。 |
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フェリーに列車が入ろうとしているところを 客室の窓から撮った。 |
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フェリーはシチリア島を出る。 モニュメントの上には聖人像。 |
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船の上で撮ってもらった写真。 |