イタリア編 〜


    2月23日(日)ナポリ:晴れ カプリ島:曇りのち晴れ

隣の部屋に人が居る事に安心してか、久々にぐっすり眠れた。
7時に起きて二人を呼び、カプリ島に向けて出発する。日曜日の朝という事もあって、ナポリの街は昨日ほどざわついてはいない。

駅前からバスに乗って港の近くで降り、海沿いに船着き場を目指して歩く。曇っているので「青の洞窟」が綺麗に見えるかどうか心配だ。

高速船に乗り込むと、怪しげな若い男が乗船券を売りに来た。金を払うと案の定お釣りが全然足りない。抗議するとすぐに返してくれるのだが、いちいち警戒しているのは疲れる。
パンとコーヒーを買って船内で食べる。
30分ほどで島に到着。港の水は澄んでいて、メダカのような小さな魚から焼いて食べられそうな大きな魚まで泳いでいる。

港のすぐ横から出るモーターボートに乗って青の洞窟へ。
切り立った崖の下を、ボートはしぶきをあげて進む。ガイドの男がインチキ英語でアナウンスしている。
海は深い青緑。雲の切れ間からは晴れ間が見え始めていた。
洞窟に着く。てっきり船を降りて入る大きな洞窟だと想像していたのだが、入口はせいぜい直径1mほどで、下半分は海なので小舟でなければ入れない。
洞窟の前には数隻の小舟が待っていて、ここから僕たちはそれに乗って穴に入るのだ。
アメリカ人観光客たちがきゃあきゃあ言って揺れるボートに乗り込んで行き、錨を降ろした受付窓口役の大きめの青いボートでお金を払っている。
僕たちの番が来た。

漕ぎ手はいかにもナポリっ子という陽気な男で、やはりどこかインチキ臭い。
料金は1万5千リラでちょっと高すぎる気もしたがチケットにそう印刷してあるからそうなのだろう。ジュンコさんが言うにはアメリカ人たちのチケットと色が違うらしいが、団体割引なのだろうか。

狭い入口を、屈んで入る。漕ぎ手が天井に着けられたチェーンを引いて、ボートを押し進める。
中は真っ暗で、どこが青の洞窟なのだろうと疑ったが、広い場所で小舟が旋回すると、その意味が分かった。

入口から差し込んだ日の光が洞窟の中の水をとても不思議な青色に光らせている。
さっきの青じゃない。まるで海の底から光をあてたように鮮やかで明るい青なのだ。

隣の小舟の漕ぎ手が『サンタ・ルチア』を歌っていた。ジュンコさんが「歌って、って何て言うの?」と聞くので「カンターレだよ。」と言うと、こっちの漕ぎ手も歌い出し、洞窟内で小舟を2周させてくれた。
でも、あげようと思っていったチップを要求されたのでちょっとガッカリ。これがナポリの疲れるところだ。
しかし美しい青だった。

港に戻り、ケーブルカーに乗って丘の上の街へ上る。
アメリカ人観光客たちは、みんなで『フニクリ・フニクラ』を唄っていた。
眼下にどんどん海が開けていく。ブドウ棚やレモンの果樹園が丘沿いに広がっている。
カプリ島の家々は真っ白に塗られていて、緑や青の窓が色を添えている。

丘の上の駅を出ると、これまた真っ白な教会の建つ広場だった。暖かいので人々は並べられたテーブルに腰を落ち着け、コーヒーを飲んでいた。

結婚式を見る。

僕たちは入り組んだ坂道を、丘の上目指して歩く。七宝焼のようにカラフルで美しい看板が白壁にはめ込まれていて楽しい。
家は段差を利用したテラスや中庭など南の島らしい工夫に満ちていて、見ていて飽きない。

塀の上からはアロエやヤシなど色とりどりの南国の植物がのぞいている。
猫が道を横切ったり、庭の犬が吠えたりする。時おり広い所に出ると、海が見える。
何て魅力的な島だろう。

僕は洞窟の青のことなど殆ど忘れ、この島の不思議な魅力に酔っていた。
ひとつ角を曲がるたびに、何か見入るものがあり、新しい発見がある。
また、昨日居たのがあの疲れるナポリなので楽しさもひとしおである。

海を見下ろすリストランテに入る。ちょっとツーリスティックな店なのでどうかと思ったが、どれもこれも美味い。
ワインも海鮮向きの辛口で、トマトとモッツァレラの取り合わせも最高。ボンゴレのトマトは丸ごと潰したような質感で、スパゲティーはアルデンテ、イカのフライの味もシチリアに勝るとも劣らなかった。

ツーリストメニューにしたので2万5千、ワイン代を入れても一人3万と少しだった。厚意なのか親父の勘定が適当なのか、サービス代も席代もコーヒー代もついてない。
教会前広場でジェラートを食べる。レモンのシャーベットは酸っぱくて本物の果実の味がして美味い。一人だったらアイスクリームなんて絶対に食べなかっただろうから、これも二人に会えた幸運だ。

帰りは歩いて港まで降りる。かなり遠回りして海へ出ると、白い丸石の岸辺の水は驚くほど透明で、まるで湖のようだ。でも、舐めるとやはりしょっぱかった。
沖では、小さくてよく見えないがイルカの群が泳いでいた。

傾いた陽に、丘の上の街と海。
できれば、ここに泊まってみたかった。

出港の時間が迫っており、走って帰りのフェリーに飛び乗る。
カヨコさんは寝てしまったので、ジュンコさんとずっと話す。音楽の話、食べ物やお酒・旅の話。とても楽しかったが、明日また一人になってしまうのが凄く寂しく感じられた。

港には、アメリカ国旗をつけた巨大な戦艦が停泊しており、軍服の海兵が買い出しをしたり、広々とした港でバスケットボールをしたりしていた。

歩いて駅へ。カヨコさんは、これから行くウィーンの友人に電話をかけに行った。
明朝早くの二人のローマ行き乗車券を買うのに付き合う。

僕がチケットを注文し、ジュンコさんが言われた金額を払おうとする。この時、僕たちは10万リラ札を渡し、そこから時刻表を見るために一瞬目を離した。
ふと見ると駅員は、青い1万リラ札を持ち「残金はまだ?」とこっちを見ている。
ジュンコさんは不思議そうな顔をして不足分を探したが、無いのであとから来たカヨコさんがとりあえず払いチケットを買う。

やはりしかし、変な気がする。今渡したのは、確かに赤い10万リラ札だった。
ジュンコさんにそうじゃないかと聞いてみると、やはり財布に入っていた最後の10万リラ札がないと言う。

僕は押し問答を覚悟で強気な態度をとり、彼女が10万リラ払ったことを主張する。
すると駅員は「あ、そっかあ」という感じで金を返してきた。
普通なら腹を立てるところだが、しらばっくれることも予想していたので良しとした。
ジュンコさんはお金が返ってホッとした気持ちが半分、自分が騙されかけたショックでドキドキしながら、何度も僕にお礼を言った。

ここは、やはりナポリなのだ。一つや二つトラブルを乗り越えたくらいで気を緩めてはいけない。でも、これも時が経てば良い想い出になるのだろう。
旅というのは不思議なものだ。

夕食をとりに出かける。
昼食の量が多かったので、始めはワインと何か食べ物を買って昨日のように部屋で食べようとしていたけれど、日曜なので録に商店が開いておらず適当なピッツェリアに入ると日本人の女の子が二人居た。
こっちの二人が声を掛け、どこへ行ったんですが?どこへ行くんですか?と話しているうちにそのうちの一人がジュンコさんと同郷なことがわかりすっかり盛り上がってしまった。
ローマで知り合ったというその二人は食事を終えて帰るところだったけれど、僕たちが席を勧めてワインを注ぎ、5人テーブルを囲んでシチリアやナポリの話(後者は悪口ばかり)に花が咲いた。
一人はこれから帰国するところ、もう一人はこれからシチリアへ向かうところだった。
僕がいろいろシチリアについて話し、彼女は期待と不安に胸を膨らませていた。
春からは名古屋のJALパックに勤めるらしい。
小柄で、とても一人旅などしそうには見えない。
僕が「今まで良く大丈夫でしたね。」と言うと、「それ、もう何度も言われました」と笑っていた。
二人はそれぞれ夜行でローマとシチリアへ向かうので、僕たちは5人で駅へ行き、見送った。「頑張ってください。」と握手をして別れる。

すごく楽しい夕食だったし、対して腹も減っていなかったのにピッツァも昨日より美味かった。ワインにはヴェスーヴィオ火山の絵が描いてあって、少し発泡してびりっとする辛口で美味い。

ホテルに戻り、また三人でワインを飲む。本当に楽しかったが、明日でお別れだ。
二人はウィーン行きのチケットが取れなかったので、ヴェネツィアまで列車で行くことにした。

別れを惜しみながら楽しく飲み、1時頃寝る。


『青の洞窟』の入り口です。


こんな狭い穴をくぐります。
これは洞窟の中からの写真。


この不思議な青さが伝わるでしょうか?


ジェラートで一休み。
左がジュンコさん、右がカヨコさん。


教会の前で、結婚式に遭遇。


白い壁の続く、坂の多いカプリ島。
本当に素敵な場所です。


島の頂上近く、三人で。



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