1994年 9月 15日(木)
アルへシラス:晴れ タンジェ:晴れ


早朝6時起床。外は真っ暗。
アフリカが近いというのに信じられない程寒い。
マウンテンパーカーを着ていても、冷たい風が強くあたる。
サンダル履きの爪先は冷水に漬かっているようだ。
まるで冬の夜の様。

チケットはあっさり買えた。8時の便で行く。
パスポートチェックを終えてフェリーに乗った頃、夜が明け始めた。
船の左側から日が昇っているから、もう南を向いているのだろう。
空は低くオレンジ色に染まっている。
太陽はまだ見えない。

フェリーはあまりきれいじゃないが、中には簡単なレストランやお店がある。
ワイヤー製の変な椅子に座って、薄汚れた窓から外を眺める。

ウィンチが動いた。出航は近い。
やがてエンジンがかかる。
重苦しい音を立てて、フェリーは動き始めた。

東側の窓から朝日が姿を現す。強烈に眩しい。空は急に青くなった。
フェリーはさらに激しい音を立てて港を離れる。
湾内で転回して出航。

西のアルヘシラスの街には、もう朝日が照りつけている。
きっと暑い一日になるのだろう。

やがてアフリカ大陸が見えた。
こうして見ると、ジブラルタル海峡なんて湖みたいなものだ。

泳いで渡る奴もいるだろう。
海沿いには、いきなり高い山が連なっている。

フェリーの進みは遅い。
レストランの中に列が出来て、のんびりと入国手続きが始まった。

ここには様々な人種の人々が入り混じっている。
白いレースの帽子をかぶった男性や、顔を隠してダボダボの布の服を着た女性。
スペイン始め欧米からの観光客も少し居るが、たいていは髭を生やした浅黒い男性だ。
僕たち以外に日本人は一人も居ない。

船は快適とは言い難く、やや酔いながらもタンジェ港に到着。
ウィンチで架けられたタラップを渡ってパスポートチェックを通り、アフリカ上陸。

いきなり数人の怪しい奴らに話しかけられる。
「コンニチハ、コンニチハ。」気安く肩をたたいてくる。
仕方のないことだが、日本人はナメられる。ここで麻薬を売りつけられたり暴力バーに連れて行かれたりするエピソードは尽きない。

船内はあんなに涼しかったのに、市街はくそ暑い。オバQみたいな白い装束に白帽子の男性が多い。

とりあえず朝飯を求めるが、時間が早すぎてクロワッサンしか買えず。
コーヒー1杯50円くらい。でも現地通貨じゃなくてペセタしかないので、クロワッサン2つと合わせて250円くらい取られる。

思い切って街に飛び込んでみる。みんな僕を見ると、
「コンニチハ、サヨナラ、アリガト。」と言う。
道の両側には汚れた商店が建ち並んでいて、明らかに偽物くさいブランド品や革製品を売っている。

その前には道路に直に腰を下ろして野菜や小さいドリアンみたいな果物を売る女性。
みんな頭からショールを被ってから下を布で隠し、この日差しの下着ぶくれしてボテッとしている。

道の中央は駐車車両だらけで、狭いのにタクシー(殆どは古いベンツ)や前カゴ付きスクーターが通る。
町中が埃っぽく、騒がしい。
バイタリティーと言うよりは、渇きのようなものを感じる。

建物はみな白く、道は狭い。
男はさっきのオバQ風の布か、魔法使いのような尖ったフード付きのマントを着ている。洋服の者もいるが、とても古い。

市場に出た。
無数のハエが飛び交っている。皆、売り買いに没頭。
遊びじゃない。
とても冷やかしに入れる雰囲気じゃない。
吊り下げられた鶏は、まだ首のあたりに羽を残したまま。
そうかと思えば別の男は羽もむしっていない鶏を足元に並べている。

鶏は、まるでこの暑さに耐えきれず眠っているように見えた。

(この日の後半へ続く。)


タンジェの街。
中央の搭からは、お祈りの放送がガンガンに流れる。
街並みや市場の様子を撮りたかったのだが、
女性がフレームに入ると申し訳ないので、あまり撮れなかった。


タンジェの町を見下ろす城砦から。
いつの間にか夏が終わり、鰯雲が広がっている。

この時までは、軽い気持ちの日帰り旅だった。



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