イタリア編 〜


1997年 1月30日(木)
トリノ:曇り
アオスタ:晴れ
クールマユール:夜で分からない(多分晴れ)

6時半に起きて身支度。洗濯物は生乾き。
でもThe North FaceのサーマスタットTシャツだけはちゃんと乾いている。
今度はパンツもこれにしよう。

昨夜宿の親父が言うには、アオスタに行くには中央駅のポルタヌオーヴァ駅に行くよりも北駅の方がここから近いしアオスタにも近いらしい。

僕は教えられたとおりに歩いて来た駅に向かう。寒い。
でも地図の場所には鉄道駅らしいものは影も形もない。
人に聞いて何度も行ったり来たりするが、ない。谷底のようなところに貨物列車が停まっていたのでその上に建ついくらか駅っぽい建物を訪ねるが、おじいさんが出てきてここには列車は停まらないと言う。

結局寒い中1時間近くウロウロして、ポルタヌオーヴァ駅に戻る事にした。骨折り損。

でも途中、独立広場の朝市が見られた。
色とりどりの野菜、果物。レモン・オレンジ・アーティチョーク、じゃがいも。
どれも1kg1,500〜2,000リラくらい。きりっとした冬の朝の空気に、野菜の香りが心地いい。

適当にトラムやバスを乗り継いで駅へ。
構内のスーパーでサンドイッチを買ってピザを温めてもらい、待合室で朝食。

本当は8時の列車に乗るつもりだったんだけどゴタゴタで逃してしまったので仕方なく、9:25のを待つ。 ところが時間になっても列車が来ない。
インフォメーションの親父も9:25と言っていたしタッチパネルマシーンにもそう出ていた。しかし無い。
黄色い発車時刻表を見ても9:25Aostaとあるが、とにかく列車はない。
仕方なく11:25のを待つ。これは掲示板にも出ているからおそらくちゃんと出ると思う。
こんな事なら10時頃まで寝ていれば良かった。かなりヒドイ一日の始まり。

待合室の中にはすべり台や木馬などがあって、5歳くらいの男の子が遊んでいた。
しばらくすると20人ほどの小学生の団体が来た。5人くらい引率の先生がいて、彼らが許すとみんな一斉に遊具で遊び始めた。
静かだった冬の待合室が賑やかと言うか騒々しいというか、とにかく明るくはなった。
10分ほどで彼らは夏の夕立のように消えた。

とうとうこのトリノでは日本人の姿を一度も見かけなかった(ジェノヴァでは一人だけ
東洋人を見た)。 ついに11:25アオスタ行きに乗る。今度ばかりは確実だ。
13:22に着くらしいが、まあこれはおおよその目安と考えた方が良かろう。
まさか列車に乗るだけで昼までかかるとは、思ってもみなかった。

たくさんの河を渡り、トンネルを抜け、列車は山あいを進む。山の上には雪が積もっている。
アルプスが近いのだ。
向かいの婦人が「アオスタからモンテビアンコ(モンブラン)が見えるけど、もう一つ北の町クールマユールまで行けばもっとよく見えるわよ。」と教えてくれた。

僕は今日の今日までイタリアがアルプスに接している事すらロクに知らなかったのだ。
案の定列車は2時過ぎにアオスタに着。

そしてまた案の定「地球の歩き方」に載っている安ホテルは閉鎖中であった。もう慣れた。
とりあえずインフォメーションのある広場まで歩く。何かの見本市が開催されているらしく、人が多くて街が華やいでいる。

まずは昼食。ハイネケンビールとほうれん草のソテーとブルーチーズのピザ。
これが滅法美味い。熱くてぱりっとしていてチーズの量がふんだんでブルーチーズ独特の癖のある味と香りがして、とろけるように美味い。僕はこんなうまいピザを生まれて初めて食べた。

ほうれん草のソテーもまた美味い。何たってバターの味が新鮮なのだ。
ジェノヴァで出てきたカブの葉なんて、本当にウサギに食べさせてしまえば良かった。
ここの料理は二つとも、チーズやバターをたっぷり使っているのに油っこくないところがすごい。
出来れば明日も来たいと思う。
となりのおじさんが食べていた大きな魚(スズキかニシン)も美味そうだった。
今食べたばかりなのに、こうして思い出すとお腹が空いてくる。

都会を離れると良い事ばかりおこる。ローマになんて帰りたくない。

アオスタのホテルは市のせいで満室。唯一連絡が取れたホテルは70,000リラ。
ちょっと無理。そこで僕は相席した婦人の進言通り、クールマユールに泊まる事にする。
運良く40,000リラのホテルが取れた。モンブランが見えたらいいなと思う。

待てど暮らせどバスが来ない。1時間に1本あるらしいが、時刻表では4:20。現在4:30。
ベンチでとなりに座っていたアメリカ人女性は3:30から待っているという。
彼女は旦那さんに3:30のバスに乗って戻ってくると言ってアオスタまで買い物に来たので、ちょっと困っている。
10年前に宇都宮−東京−京都−広島と旅行した事があるそうだ。
たった一週間の旅しかしていないが、英語さえもなつかしく感じる。
少なくとも何を言っているのかは分かる。

やっとバスが来たが、たまりにたまった客で満員になった。
日本人はおろかバックパッカーなんて僕一人しかいない。

バスは険しい山々の間に無理矢理造ったような道をひょいひょいと進んでいく。
太陽が山の向こうに沈むと、あたりは一瞬にして暗くなり、気温が下がったのが目に見えて分かる。
実際駅前では8℃あったのに道中は−2℃だった(電光温度計があったのだ)。
1分1秒ごとに暗くなっていく。道には街頭なんてない。
急な斜面に古い石造りの教会や城塞のような塔が建っている。

クールマユール着。もう暗い。時刻は6時。
ツーリストオフィスで地図をもらって明日のバスの時刻を(聞いても仕方ないかも知れないが)聞く。

坂道を上がって紹介されたホテルに着く。一階は食堂だ。
「Buona sera!」と女将さん始め宿の皆さんがにこやかに迎えてくれる。
階上に行くと、お湯のでない共同バスと格闘しているミケランジェロみたいな髭の男が挨拶してきた。
名前はマーク。シドニーからスキーに来たという。そう言えばオーストラリアは今、夏なんだ。
この人も東京−京都を旅したという。
水を買いに外に出る。まるで新潟かどこかのスキー場のような雰囲気。
スキー街というのは似るものだ。

つば付きのニット帽を買った。ペンギンのマークが可愛い。3万リラ。
GMというメーカーで、イタリアではメジャーらしく他にもヘアバンドや靴下を売っていた。
ここの人は皆英語が話せるので、イタリアにいる事を忘れてしまう。

北欧風のしっかりした家具の使われた清潔な部屋。昨日とは全然違う。
どうすればモンブランが見られるか分からないが、まあやってみよう。
(今日は人に何か訊く度に「OK、I'll try, thank you.」ばかり言っている。)

階下に降りる。ロビーのTVでちょうど一週間前に観た子供番組をやっていた。
色とりどりの箱が並べてあって、電話をかけた子供が指定した色の箱を司会者が開け、中のプレゼントを当てるゲームだ。
プレゼントはトランシーバーからタッパー(ママが喜ぶ?)までいろいろ。
変なところで一週間経った事を感じる。

宿の親父さんがやってきて、「今日スラロームで日本のタカヤマが6位になったよ。」と言ってチャンネルをスポーツ・ニュースにしてくれた。
イタリアのスポーツ・ニュースは面白い。サッカーにはもちろんかなりの時間を割く。
何と古代ギリシャのような馬車の競馬もある。
スラロームにはかなり詳しい説明が付いていて、所々スローモーションやコマ送り、巻き戻しを駆使して解説する。おかげでトンバ選手は何度も苦労して同じポールをクリアしていた。

部屋には薪のストーブがあり、本物の牛の毛皮がソファーに敷いてある。
シープドッグみたいなムク犬がいて可愛い。落ち着く。
宿の親父が親切すぎるところまで、日本のスキー宿に似ている。

階上に上がると共同バスのお湯がドボドボと流れていた。
親父さんに言うと飛んできて、苦労して蛇口を締め「ああ、こんちくしょう!」という顔をしていた。
幸い僕はさっきまで親父さんと一緒にいたのでバルブゆるめ犯人リストからは除外されている。
マークが閉め忘れたんじゃないかと思うけど、言わないでおこう。

また閉まらないとイヤだから、一階下のバスを使おうと思う。
しかし一階下のバスはシャワーのみで、しかも水しか出ない。
やっとお湯の出し方が分かった時には床が水浸しで流れず、これ以上使ったら溢れるのは必至。
仕方なく一応バスタブがあるさっきのバスを使う。
しかし、何と栓がない。そこで足の親指の付け根を使って栓をし、無理矢理バスタブとして使う。
お湯は出たり出なかったり。いい加減風邪をひいてしまいそうだ。
一応、最後は好調になった。結果的には今までで一番熱いお湯が出た。
でも、もう二度と使いたくない。
ついでに言うと今までは「お湯がぬるいと文句を言う程ではない」というぎりぎりの線が多かった。
しかし、タイプは違えど今日のバスが一番ヤクザな代物であった。
前の旅行では、シャワーだけで風呂に入れない事が結構こたえていたけれど、
今回は普段の一人暮らし生活からシャワーなのであまり苦にならない。
でも日本では熱いお湯がたっぷり使えた。この差はバスタブの有無よりも断然大きい。
しかも、ここはスイス国境に近いアルプス山麓なのだ。ちゃんとして欲しい。

何のかんので今日は疲れた。よく眠る。

 
お祭りの一環で、
気球飛ばし大会があった。
冬の綺麗な青空とカラフルな気球の
コントラストが鮮やかだった。


日が沈むと、
山あいは急に気温が下がる。
雪を戴いたアルプスの山々。


クールマユール着。
日はまさに沈もうとしていた


この後で行くヴェネツィアの写真です。
この黒いニット帽子をクールマユールで買いました。



ペンギンのマークです。



Next


戻る

TOP