イタリア編 〜


1997年 1月31日(金) クールマユール:晴れ
アオスタ:快晴 ヴェローナ:霧

目覚めてすぐに散歩に出かける。モンブランが見たいのだ。でも、どの山も同じに見える。
マークの話ではシャモニー(フランス側)まで行けばバッチリ見えるらしいがチョット自信ないな、ということだ。
スキーをやらないのにシャモニーまで行ってもちょっと寂しすぎるんじゃないかと思って、クールマユールの
広場から教会越しに見えるアルプスの山々を眺めることにする。幸いどの山も雪を頂いて美しい。
僕にとってはどの山だって、Mnte bianco(白い山)なのだ。
ホテルのロビーに集まった宿泊客達は、僕を覗いて全員がスキーヤーだった。そりゃそうだ。誰も冬の白馬や越後湯沢にただフラッと観光に行ったりはしない。
でもまあ、景色は素晴らしい。暖かかったローマから来ると、僕は本当に旅をしているんだなあと思う。
オイルヒーターに乗せてあった洗濯物が良く乾いている。発火しないかと思ってヒヤヒヤしていたが、トイレットペーパーが置いてあったので大丈夫らしい。

アオスタの街に戻る。イタリアにしては珍しく、バスは1分しか遅れないで出発した。
朝食でも食べようかと思っていた僕は、余りにもイタリアという国を見くびっていたのかも知れない。

昨日の逆で、日が昇っていくに連れて目に見えて気温が上がっていくのが分かる。

アオスタのお祭りは昨日より盛り上がっていて、熱気球を間近で見られた。
何の祭りだかサッパリわからない。木製の道具を売る出店が多いが、お菓子、靴、風船、パスタマシーン、猪の首を飾ったサラミ屋から大型建設車両まで何でも売っている。人出がすごい。

アウグストゥス(アオスタを築いた)の凱旋門やローマ時代の円形劇場を見る。
雪が積もっていて円形だか何だかよく分からない。 例によって荷物の預かり賃をケチったので、重い。
何としても昨日のピッツェリアでもう一度食べたいと思い、訪ねるが営業は12時から。あと1時間ほどある。
考古学博物館の前野円形ベンチに座る。人々は風船やワインを手に、楽しげに通り過ぎて行く。
ショーウインドウに映った僕は、まるで帰還した山岳部隊の兵卒のようだった。
昨日買った帽子が、その効果を高めている。
日差しは昨日より強く、雲一つ無い。でも気温はきっと意外なほど低いのではないかと思う。

やっと店が開いた。待ちに待った4種のチーズ(クァトロ・フォルマジオ)ピッツァ。
そして昨日隣のおじさんが食べていた大きな魚を注文する。スズキだと思ってspigolaは無いかと訊くと、名前は違っていたが品物は合っていた。
それとガス入りミネラルウォーターとほうれん草ソテー(本当に美味い)。
テーブル席がふさがっていたのでカウンター。何とガラスの向こうでピザを焼く様がライヴで観られる。
肉まんくらいの大きさの生地を指でつぶして平たくし、回しながらベレー帽くらいに延ばす。そこに潰したトマトとチーズをのせて、あとは種類による具をのせる。オーブンは何と本物のかまど。
時たま薪をくべる。たった3分か5分でさっきの生地が熱々のピッツァになっている。観ていてとても楽しい。
目の前で焼いているのを観ていたせいか、今日のはまた格別に美味しかった。
そして魚がまた美味い!!オリーブオイルがビタビタの油っこい物を想像していたが、表面(皮)だけはパリッと揚がった焼き魚で、たっぷりとレモンを搾って食べる。
僕がその香ばしい皮を食べていたら、隣のフランス人が「皮を食べるの?」と驚いていた。
僕がピッツァに山ほど唐辛子をかけた時も驚いていたこの婦人は、隣に座ったペルーの友人と一日旅行でアオスタの聖何とか祭りに来たのだと言う。やっと祭りの素性が分かった。 宗教行事なのだ。
「日本には行かないんですか?」
「とても高くて行けないわよ」
「僕は、フランス料理店で働いていたんですよ」と会話が弾む。

いくら料理が料理が美味しくても一人の食事はわびしいものだ。
これで完璧な食事になった。

4万リラ(3200円くらい)。魚が高くて23000リラもしたが、本当に美味しかったので全然気にならない。
このリストランテだけで、アオスタに来た甲斐があるというものだ。

駅に向かう途中、柱廊の屋根に風船が引っかかって困っている男の子がいた。
太めのお父さんがジャンプしても全然届かない。もちろん僕はリュックを降ろして取ってあげる。
「Grazie!」
「Prego, chiao!」
 やっと祭りに溶け込んだ気分になってくる。

駅のホームから、実家に電話をかけた。特に電話などは来ていないと言う。
毎時40分にトリノ行きの列車があると思っていたが、何の因果か13時40分だけはなかった。
僕は駅前をブラブラしたりさっき膨らませていた気球が空高く飛んでいく様を眺めたりして過ごした。
トリノ行きの列車は出発ホームの変更があった。
アナウンスの「Trino porte nuova」を聞き逃したら危ないところだった。
何しろ、お祭りの期間は宿がないのだから。 17時15分発のトリノ発ヴェネツィア行きを予約する。
途中のヴェローナで降りるつもり。もうトリノやミラノなどの大都市には泊まりたくないのだ。

ようやく14時40分になりトリノ行きが発車した。
半分を過ぎたあたりで眼鏡をかけた綺麗な女の子が乗ってきた。
年の頃は僕と同じくらい。冬なのに珍しくスカートをはいて黒いシックなジャケットを着ている。
彼女は新聞を読む。 僕が見とれているのに気づいたのか、彼女はにっこり笑ってくれた。
僕は慌ててトリノ駅にレストランはあるかと訊いた。寄りによってひどい質問だ。
彼女は親切に教えてくれた。アレキサンドリアの近くに住んでいて、トリノには病院に寄りに来た。
何と僕と同じ大学の最終学年で、もうすぐ卒業だという。
改札で別れた「Good luck, chiao!」彼女は終始にこやかだった。名前をきくのを忘れた。
取りあえず次の目的地がヴェローナなので、ジュリエッタと呼ぶことにする。
マルコ、アントニエッタ、ジュリエッタ、世界がみんなあなた達のように親切だったらどんなに素晴らしいだろう。
さっきはリストランテが混んでいたおかげでピッツァ造りが観られた。
今度は良い時間の列車がなかったおかげで親切な人に出会えた。 旅ってヤツは不思議なものだ。
5分先に何があるか分からないのだ。 幸せな気分でヴェネツィア・サンタ・ルチア行きインターシティーに乗る。

午後5時15分。日は今まさに暮れようとしている。 暗くなって時刻は7時近く。
列車は大きな駅に着いた。外は暗い。聞いてみると、そこはミラノだった。
たくさんの人が乗り込んでくる。僕は珍しく座席の予約をしているので、あまり気まずくない。
お年寄りも体の不自由な人もいない。 僕は以前このミラノを訪れた時、あまり良い目にあった記憶がない。
確かにドゥオーモは美しかったし「最後の晩餐」も素晴らしかった。でも、ただそれだけ。ローマと同じで、
都市的な退屈さとちょっとした緊張感があった。レストランは高いし、ホテルは満員だ。
だから今回は、黙って通過する事にした。

昨日の風呂のせいかノドが痛くて寒気がする。
イタリア人は皆どうしてあんなヤクザな風呂で平気なんだろうか?

ヴェローナにつくとスゴイ霧だった。道の反対側が見えない。
YHに電話をかけたが会員証が無いと泊まれないという。
ジェノヴァでポイントカードのような物を作ったのでそれではダメか、または会員証の作成は出来ないのかと尋ねるが、係の男は英語が殆ど出来ず、要領を得ない。
飛び込みで行こうかと思ったが、時刻はすでに夜の9時近い。
もしダメだったら途方に暮れてしまう。何しろ真っ暗で霧が深いのだ。

僕はホテルを求めて駅を後にし、ヴェローナの街へと向かう。こういう時に限って街は遙遠くにある(駅から20分以上歩かなくてはならない)。
大通りを渡る時、車に僕が見えているのかどうか分からない。
停まった車に花を売る少年が怪訝な目で僕を見る。
向こうから歩いてくる人がマトモな人なのか怪しい人なのか、すれ違うまで分からない。

やっと広場に着いた。一世紀に建てられたコロッセオのようなアレーナ(劇場)が夜霧に浮かび上がる。
近づいてみたいが、暗い、荷物が重い、体調が悪い、と条件が重なっているので行かない。
高級そうなホテルが軒を連ねている。ヴェローナは意外に都会なのだ。
やれやれ、これならミラノで降りても良かったなと僕は思う。
あの時点では時刻もまだ7時頃だったから安いホテルも当たれたと思う。
歩きに歩いて最初に飛び込んだホテルは13万リラ(1万400円)。ちょっと予算オーバーだ。
でも、だんだん不安に負けそうになる。時刻はすでに10時になろうとしている。霧と風邪が僕を打ちのめす。
もし他を当たってダメだったらその値段で手を打ってゆっくり眠り、明日安いホテルを探そうとまで考える。
こんな考え方はバックパッカー的とはとても言えない。
2軒目。ここも二つ星が付いているからやばいかな、と思ったが7万リラ。バス無しにしてもらって6万5千。
これならさっきのホテルの半額だ。朝食抜きにすると6万まで下がり、シエナの宿舎と1万しか変わらなくなるが、外で食べても5千リラは軽く超えるので、付けてもらうことにする。
ホテル付属のレストランで、ツーリストメニューを食す。
ペンネ・仔牛のレバーソテー、ミックスサラダが美味い。
特に自分で山ほどかけたワインビネガーが体に浸みるほど美味かった。
ペンネはあまり好きではなかったが、歯ごたえがあって美味いパスタだ。偏見が治った。

風邪薬を通常の1.5倍飲んで眠る。 夜、汗をかいてTシャツを着替える。
考えてみたら、過密スケジュールだったかも知れない。思いの外僕は疲れていたのだろう。


市庁前広場。

小型ジェットエンジンのような
大きなガスバーナーで
気球を膨らましているところ。


無事、空に浮かんだ気球。

きりっと冷えた空気が気持ちいい。


巨大フライパンで
ジャガイモ料理を焼いているところ。

この他にもホットワイン(僕も飲んだ)などなど
たくさんの屋台が出ていた。


一夜明けて行ってみた、古代円形劇場アレーナ。
コロッセオと同時代の遺跡だが、
現役バリバリの劇場。



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