奥田民生

 この人は、ご存知の通り、ギタリストではなくボーカリストなのですが、オレのオレによるオレのためのギターマガジンなので、勝手に話を進めます。まあ、ホントのギターマガジンにも最近はよく出てきているので、許して下さい。ところで、彼からどんな影響を受けたかというと、音楽に対するスタンス、ギターの弾き方、それからコード進行だと、自分では思っています。というわけなので、私が影響を受けた点を中心に、ギタリスト奥田民夫、作曲者奥田民夫を生意気にも語らせてもらいます。
 では、彼のディスコグラフィーをデビューから追いながら、ギタリスト奥田民夫に迫ってみます。

UNICORN初期
デビューアルバム「BOOM」
この人は昔、ギタリストになりたかったそうです。がUNICORN初期はギタリストとしてはほとんど活躍していません。1枚目BOOMでは、笹路正徳氏の力を借りながらのセルフプロデュースをしていますが、ほとんど笹路氏がやったのでしょう。ただ、笹路氏としては「この子達にはレコーディングの仕方だけじゃなく、壊し方みたいなものを教えていきたい」と思ったそうです。当時から、UNICORN、そして奥田氏の可能性が分かっていたのでしょうか。
この頃のバンドのキャッチコピーは「POPでもない。HARD ROCKでもない。俺達はHARD POPだ。」でした。ああ恥ずかしい。

2ND「PANIC ATTACK」
2枚目PANIC ATTACKになると、曲の壊し方というものを徐々に実践して、やりたいことが、より明確にされているようです。(特に最後の曲「ツイストで目を覚ませ」のアレンジなど。)エレキはテッシー、アコギは民夫というように奥田氏のギターはだんだん頭角と現し始めていますが、普通のことをしているだけで、特筆することはありません。
この頃から、だんだんアイドルロックバンドの枠からはみ出るようになり、事務所としては売り方に困るようになります。

UNICORN中期(ブレイク時期)

3RD「服部」
UNICORN、そして奥田民生の才能が開花しはじめたこの「服部」から、ギター的にかなり目立つ事をやり始めています。アルバムタイトル曲「服部」のギターリフは掛け値なしにかっこよいです。作曲面では「大迷惑」ですね。有名な曲なので、皆さん知ってるとは思いますが、AメロからBメロへの展開が見事です。全く違う展開なのに、一曲通して聴くと何となく一つの流れになっている。こういう曲は何度聴いても飽きないですね。
後に作られる「働く男」なども同じ様な感じです。

4TH「ケダモノの嵐」その他
企画物「THE BAND HAS NO NAME」を経て、「ケダモノの嵐」でバンドとして大ブレイク。目指していた「全員が歌えるバンド」が実現し、内容的にも充実しています。
作曲面では、「スターな男」を挙げたいと思います。ロック調でサラリと聴けますが、注意して聴くと1音ずつ転調しているのがわかります。なんかすごい難しいことをしているなあ、と感じますが、実はそうではなさそうです。解明してしまえば、Cメロ(ふりかえるなふりかえると〜)の最後「この世はそんなものーーー、おーーー」の部分の、「おーーー」が前の音も「のーーーー」より半音上がっていて、それをドミナント(V)に使ってるので、すんなり転調できる。
と思って今、譜面を見たら、仕掛けはそれだけではありませんでした。めんどくさいので、みなさん各自テメーでお考え下さい。
奥田氏はギターでも大活躍をしています。特にその「スターな男」でのソロ回しは必聴です。よく聞くと、誰かがソロをひく前に名前を呼んでいるので、わかりやすいはずですが、よく聴かないとわかりません。奥田氏のソロは最後で、ソロの前に「オレ」といっているので、聴いてみて下さい。
このアルバムはアーティストのやりたいことの実現(芸術面)とセールス面での成功が結びついていてとてもすばらしい。また、バンドとしても一番幸せな時期だったのかもしれません。

 その後、「おどる亀ヤプシ」「ハヴァナイスデー」など実験的なことをやりましたが、特にギターのことで特筆することはありませんのでとばします。「おどる亀ヤプシ」の中の「ボサノヴァ父さん」は名曲です(この前のひとり股旅in武道館でもやったそうです)。

UNICORN後期

5TH「ヒゲとボイン」その他
 UNICORNとしての実験はさらに進み、大実験アルバム「ヒゲとボイン」が発売されますが、セールスはさっぱりでした。ここでは、バンド全員屋外で録ってみたり、同じ曲を朝起きてすぐに録ったのと、夜キャンプファイヤーの前で酒を飲みながら録ったのとを聴き比べたり、段階的にフェイドアウトしてみたりと客そっちのけでやりたいことだけをやっています(売れないのも当然だ)。余談ですが、このアルバムと併せて発売されたビデオは「飛び出る3Dビデオ」だったのですが、何をどうしてしまったのか、あのメガネをかけても「飛び出ない2Dビデオ」という失敗作でした。彼らが悪いわけではないですが、どうもこの頃から負の方向に引っ張られている気がします。

また、このアルバムから、バンドではなく個人の作業が増え、それぞれの目が外へ向かっていったそうです。それならば、「ソロでやっちゃおう」とそれぞれソロシングルとミニアルバムをリリースします。シングルは割と有名ですが、ミニアルバムの方は意外に聴いたことないひとが多いのでは。


6TH「スプリングマン」
 そして、UNICORNの最後のオリジナルアルバム「スプリングマン」がでるわけですが、これはもうバンドではなく、それぞれのソロです。(でも結構好きですが。)その後の方向性を予感させる「与える男」「甘い乳房」「スプリングマンのテーマ」など、奥田民夫の世界がほぼ完成されています。それからこのアルバムにはへたくそなアマチュアバンドがコピーすることで有名な「すばらしい日々」が入っています。この曲のライブ映像を見たのですが、すごい!4人(+古田たかし)でCDそのままの音を再現していました。特に阿部義晴氏はイントロのギターのリフ、キーボード、コーラスをやらなければならず、リッケンバッカーを抱えたままキーボードの前に立ち、マイクも意識するという大忙しぶりでした(最新アルバム「風花雪月」は涙が出るほどよいです。インターネットのみで販売なのでお買い求めは こちらからどうぞ)。それで奥田氏は何をやっているかというと、歌とギターです。こう書くと普通ですが、大変です。この曲の歪んでない方のギターはコードの音とメロディーと同じリズムで弾くので歌うには音程をとりやすいんですが、たまにシンコペーションが入るので、首から上と下を別人格の人にして演奏しないとダメです(よく上半身と下半身が別人格の人がいますが、それでは弾けません)。

奥田民夫ソロ 初期

それからついにソロになるわけですが、「29」「30」はギター演奏よりもギタリストが作る曲・コード進行にとても衝撃を受けました。独特なコード感があります。子供の頃まずいなぁと思っていた食べ物が大人になって食べたくなっていく感じで(ちょっと違うなぁ)、徐々に入ってきてやみつきになります。
 井上陽水氏とのコラボレージョン「ショッピング」では3連の弾き方がとてもかっこいいと思いました。UNICORNの「雪が降る町」の中でもやっています。ここでは「ありがとう」をはじめ、いろんな曲でやっています。これはすばらしくかっこいい。井上陽水氏も「奥田君は3連符がいいね。」と言ったそうです。ほめられた奥田氏はそればっかりやって今度は「やりすぎだよ、君。」と言われたそうです。
 ミニアルバム「Fail Box」、私はこのアルバムが大好きです。エレキギターを弾く、というより鳴らすといった感じで、だらだらと演奏しています。本当にこのアルバムはダラダラしていると思います。このアルバムのミュージシャンはアメリカの人たちです。1曲目を聴くと必ず眠くなり、最後まで聴いたのは実は最近になってからなのです。
 「股旅」。「Fail Box」のだらだらをいつものメンバーでさらにだらだらした感じになっています。さらに本当にだらだらしています。はやい曲もどことなくだらだらしています。影響を受けた曲は「悪のかけら」。シングル発売当時はこの曲はちょっと「どんなもんかな」と思いましたが、今更になってヘビーローテーションで聴いています。とにかくまずバンドとしてかっこいいですね。
 マキシシングル「月を越えろ」。4曲目の「Mother」のセルフカバーを聴いて下さい。こういうことができるのはよっぽど自信があるからだと彼の懐の深さを知ることができます。部屋で大音響で聴きたいですね。こういうのは。
 それから「月を越えろ」のこの1フレーズにやられました。

「そしたら僕は何にもにてない、不思議なコードで恋の歌うたおう」

 でも後でちょっとかっこわるいと思いました。

 いろいろ書いてきましたが、結局音楽的なことはわからないので書けませんでした。でも1つだけ言いたいことがあります。「日本の音楽はいい曲が売れ、UK、USAの音楽シーンはいいスタイルが売れる!」もちろん例外はあると思いますが、日本には1つのスタイルが無いと思います。「歌謡曲」という売れているものは、その歌謡曲をアメリカなどから輸入したスタイルに乗せて我が物顔で演奏する。もちろんそれは悪いことではありません。が、それではいつまでたってもアメリカを日本が追いかけ、日本をアジアが追いかけるという経済的に強い方から音楽を輸入するという状況は変わらないでしょう。やめませんか、そんなことは。と思うわけです。なぜそれが嫌なのかというとそのスタイルを輸入した音楽は音楽ではなく頭の良い人が考え出した商品だからです。商品だから古くなればポイ、ということで。小室哲哉のすごいところは自分を商品ではなく、1つのスタイルとして出し、いろんなアーティスト(商品)たちに歌わせているところです。だから「小室哲哉」は滅びることがないが、アーティストたちは「商品」なので飽きたらポイなのでしょう(悲しいところはお客さんたちに飽きられるだけでなくT.K.にも飽きられることです)。
 そんなことを言いながら私もそんな商品に侵されているわけでえらそうなことは言えませんが、そればっかりでは悲しいじゃあーりませんか。

 日本にも徐々に新たなスタイルが生まれてきつつあると思います(勝手に思っています)。「真似」と「あこがれ」は微妙に違います。なんて説明するのはむずかしいですが。


奥田民生はスタイルだと

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