〜パリ編 2日目〜


8月29日(月) パリ:晴れ

早々と目覚める。ぐっすり眠ったようだ。

よく晴れているが、朝は少し肌寒く感じた。パリの夏の終わりは、東京より早いのかも知れない。

階下に降り、パンとコーヒーの朝食。すごく質素だけど、朝食付きの宿なんて最初で最後だろう。
幸いパンは食べ放題らしいので、たくさんいただいた。

ホテルの前のメトロ(地下鉄)駅から、パリ北駅に向かう。初めてのせいか二度も乗り間違えた。

今夜の夜行を予約するのだ。行き先はオランダのアムステルダム。

ここパリは時計回りにヨーロッパを一周するこの旅の出発点であるが、一周して最後にまた訪れることになる。
そして、その時は友人に会うことになっているので、3人でじっくり歩こうと思う。

しかし素晴らしい天気だ。明るい日差しの下のパリは、昨夜とは全く違った顔を見せてくれた。
様式の整った街並みに、色とりどりの花や緑。

ようやく異国に着いた実感が湧いてきた。
石像で飾られた美しいファザードを持つパリ北駅に着く。二等ユーレイルパスの一ヶ月券に日付を刻印してもらい、寝台を予約した。

再びメトロに乗り、オデオン座、リュクサンブル宮殿、パンテオンと歩く。

広い宮殿の花園は美しく、パリという都会の真中にいるのを忘れさせられてしまった。

QUICKという見慣れないハンバーガーショップで昼食。昼間っから飲むビールが美味い。
満腹になって、ソルボンヌ大学に向かう。石造りの古い重厚な造りで、いくつもの建物が連なってできている。

留学生に成りすましてこっそり忍び込む。学生掲示板には様々な張り紙がしてある。外国語講座やセミナーに混じり、ヨガや尺八教室の募集まである。

大学特有のざわめき。自分の通う大学を思い出した。

セーヌ川の中洲、シテ島にそびえるノートルダム寺院へ。一部工事中ながら、遠くからも見惚れてしまう見事な教会。高いところ好きの僕は搭
に登ってみることにした。

階段途中の踊り場からは、遠くエッフェル搭が見えた。無数のガーゴイル像が、息を切らす僕をせせら笑っている。搭の一部は木製で、どうしてこの巨大な鐘が支えられるのか不思議だった。

オルセー美術館に行ったが休みだったので、そのままセーヌ川沿いに歩き、グラン・パレへ。たいした距離だ。

コンコルド広場からは、左右に凱旋門とルーブル美術館が同時に見えた。巨大なオベリスクが、天を突き刺そうとしている。

カラッとしているが、日差しは強い。公園の木陰のカフェで、冷たいペリエを飲む。喉にシュワッと刺激が走り、すぐに消えた。そういつもビールを飲む
わけにもいかない。日暮れまでには、まだまだ時間がある。

パリ北駅。
何でこんな格好をしているのか、今となっては分からない。
直接アムステルダムに行かなかった訳も分からない。
とにかくここが、出発点なのだ。

パリを東西に貫くシャンゼリゼ通り。
はるか遠くに凱旋門が見える。
多分ここはペリエを飲んだチュイルリ公園。

 
ルーブル美術館へ。

分かりにくい入り口(ガラスのピラミッドだ)から入り、カバンを預けて中へ。
ネクタイを締めた僕はいきなりイタリア人団体に係員と間違われ、質問される。
ミケランジェロの作品を探していたが、申し訳無いけど僕に分かるはずがない。

ルーブルは巨大だ。美しいがあまりに大きい。
ミロのヴィーナス、モナリザ(あまりにも見慣れているのでカラーコピーを見ているようだった)などなど、素晴らしい作品が目白押しだが、これでも所蔵品のほんの一部なのだろう。

印象に残っているのはサモトラケのニケ像だ。僕の高校の近くの日大芸術学部(江古田)の前を通る時、ガラス張りのホール中央に大きなこの像のレプリカが見えた。それがまるで、本当の女神のように見えた一瞬が、かつてあったのだ。
首と顔をうしなった女神の姿を、僕はもう一度想像してみた。

最後に、ベランダのカフェでアイスティーを飲む。もう足が棒のようだ。
しばらく美術館はパスしたい。

再びメトロを乗り間違えて北駅に戻る。
駅近くの安いチャイニーズで夕食。パリにはいろんな国の人が住んでいるらしく、こんな店も多いようだ。鶏肉ののった炒飯を食べた。
明るいから気付かなかったけれど、食事を終えるともう夜の八時だった。

パリは素晴らしい。

しかしその夜、美しいこの街に酔っていい気分だった僕の横面に平手打ちを食らわすような事件が起きた。


セーヌ川からノートルダム寺院を望む。
本文では「一部」となっているが、
大部分が工事中だ。
記憶はやっぱり曖昧だ。



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