1994年8月28日(日) 高校時代から、毎週のように夜通し大騒ぎしながらビールを飲んだ部屋だ。友人ヤスヒロと原田の彼女がつきあってくれた。 明日から1ヶ月、ヨーロッパを巡る旅が始まる。 朝5時に起き、原田のお母さんが作ってくれた紅鮭の朝食を有り難くいただいた。味噌汁や漬け物など、これからしばらくは食べられないものばかり。 おじさんがわざわざワゴンを借りてきてくれた。夏の終わりながらまだ涼しい早朝の東京を走り抜け、7時に成田に着いた。気をきかせてヤスヒロと空港を散歩し、原田を彼女と二人にしたが、朝早すぎて店はどこも開いていなかった。 1万円をフランに換えてチェックイン。見送ってくれた友人たちが手を振る姿を見上げながら、エスカレーターが降りていく。実感がまだわかない。 東京中探して手に入れた一番安いチケットは、大韓航空だった。 ソウルで乗り換え、パリへ。機内放送でこの飛行機がオルリーではなくシャルル・ド・ゴール空港に着くことを知り、いささかの不安を覚えた。 長時間の飛行を終え、古いSF映画のセットみたいな空港に降り立つ。 入国審査官は女性で、なぜか原田のパスポートをしばらく見つめている。 僕たちが顔を見合わせていると、彼女は顔を上げ、にっこり笑って「Happy birthday!」と言った。 そう、今日は彼の20歳の誕生日なのだ。 嬉しい第一歩に気を良くし、空港を出ると夜のパリは少し肌寒い。 街へ向かうバスの券を買う、たった1フランのコインが無くて一本見送る。 両替はできず、売店で何度も見慣れないカラフルなガムを買って小銭を作った。 バスは夜のオペラ座の裏に着く。 初日の宿だけは東京から予約していた。パリなのにロンドレ・ニューヨークという訳の分からない名の安ホテルだ。 荷物を置いて歩き出し、近くのBARで食事。ハンバーグを食べた。 まだ気分がふわふわして、地に足がついた気がしない。 サン・ラザール駅の大きな階段を上がり、ワゴンの売店でビールを買う。 ここがパリか。街灯の中、石造りの建物を見上げながら歩く。まだこの街の表情は分からない。 これからの旅の安全を祈ってビールを飲み、 最初の眠りについた。 |
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パリに着いた夜の一枚。 オペラ座裏の路上。 右が筆者。 |