1994年 9月 12日(月)
 バルセロナ:晴れ バレンシア:晴れ
 

7時半に起床。
まだぐっすり眠っているドイツ人学生を起こさないように気をつけながらも、ベッドに頭を直撃して転げまわる。

サンツ駅でバレンシア方面へ向かうインターシティーを待ちながら朝食。
手紙を出す。

新幹線ばりに快適な車内では映画が上映されてイヤホーンが配られるが、スペイン語でサッパリ分からず。

しばらく眠ったら腹が減ったので朝買った二つのパンを食べるが、どちらも甘過ぎ。

午後1時半にバレンシア着。
今夜のグラナダ行き寝台を取った。

スペインの田舎を期待していたが、駅前は意外に開けていてガッカリ。
気温37℃の電光掲示があって愕然。
くそ暑い。バルセロナ以上だ。
アフリカに近づいているせいだろうか。

市場を見物するついでにオレンジを買う。
1キロ120ペセタ、2個で40ペセタ。水は60ペセタ。安い。きっとバルセロナが異常なんだろう。
ここの市場はでかい。体育館を3つ並べたみたいだ。
午後なので魚市場はきれいサッパリ何も無し。
朝捕れた魚は昼までに売れるようだ。
日本のスーパーのようにパックに入って夕方の見切りセールを待つような事はないのだ。
肉・野菜市場も閉まりかかっている。きっとシエスタ(お昼寝)の準備なのだろう。

午後2時とあって、日差しはピークだ。
バルセロナより田舎だから落ち着くかと言えばそうでもなく、ハエはうるさいし物乞いも多い。
半ばヤケ気味に大聖堂前でオレンジを食べる。これは美味かった。

かと言ってこの日差しが微笑ましいかと言えばそうでもなく、ただただ強烈に暑いだけ。
涼し気なものは白い鳩くらい。

そんな時、海行きの路面電車を見つけたので、乗ることにした。
一刻も早く海に行きたい気分だ。

隣り合わせた女の子はとても可愛い。
ラテン系の顔立ちにウェーブのかかった黒い髪。
13歳くらいだろうか。
その女の子も同じ海岸の停留所で降りた。

海は真っ青。
僕はサンダルを脱ぎ捨ててジーンズをまくり上げ、海に入った。
このくそ暑さのせいで海水はすっかりぬるかったが、それでも気持ち良かった。
両側数キロが海岸。
海水浴客は楽しそうにはしゃぐ。

ようやくバレンシアが気に入り始めた。
この日差しも許せるような気がした。

今度は別の路線で郊外に向かう。
両側の窓からオレンジ畑が見え始め、やがて低いオレンジの果樹が窓すれすれにまで迫って来た。

オレンジの実はまだ青く、よく見ないとただの林だ。

海のように一面広がる緑は目に痛いほどで、夏の終わりの日差しを惜しむかのように輝いている。

これがバレンシアなんだ。
駅前の暑さにウンザリしているだけで何が分かる?

田舎駅で電車を降りる。

駅からまっすぐ伸びる通りの並木は何と椰子の木だ。
ナツメヤシというのだろうか。
小さい豆みたいな実がたくさんなっている。
シエスタの途中なのか人影はまばらで、スーパーで例のごとくパンとチーズとハム(オリーブの実入り)を買って、オレンジ畑に座って食べる。
腹は暴力的に減っていた。

後になって思えば、このオリーブが変な味だったような気がする。

駅前に戻ると、目覚めたのか学校から帰ったのか中学生くらいの女の子がいっぱいいた。

夕方の日差し。電車の中でもジリジリと照る。
バレンシア市街は、さっきまでの大聖堂近くの静けさが嘘のようにごった返している。

商店はシャッターを開け、鳩の数も増えた。
派手なキャンディー屋、バール、洋服屋、宝くじ屋。車も増え、警官も赤信号を平気で渡る。
さっきまで居た田舎駅が恋しく思えた。

まだ明るいが、気が付けばもう夜8時。バールに入る。
今夜も夜行なのでまだ酔うわけにはいかない。
「セルベサ・シン・アルコホール」(ノンアルコールビールをください)
「シー、シー。(はい)」
 段々とスペイン語も板についてきた。

中央郵便局で友達に手紙を書いた。
海の写真の絵葉書。
海がきれいなこと。オレンジが美味かったこと。20歳になる頃にはアフリカに渡っているだろうとの事。

2週間も日本を離れるとたまに寂しい気もするが、それでも旅は強烈に面白い。
特に今日はガイドブックの壁を破って自力で海とオレンジ畑を見つけて嬉しい。

夜の駅は涼しく、旅行者でいっぱいだ。

昼に食べ過ぎたサンドイッチが胃にきて悩む。
日頃健康なだけに対処法が分からない。
胃薬を2包飲んだら、今度は腹が痛くなって悩む。

夜遅く、少し遅れて着いた寝台車。
中段に横たわり、腹痛を抱えてとりあえず眠る。

明日は、イスラム最後の砦アルハンブラ宮殿のあるグラナダ。
旅は後半へとさしかかる。

思えば、いろんなことがあった。
今日までの日記を読み返してみたけど、とても2週間の内におこった出来事とは思えない。

多くの人々に出会って別れた。
楽しいことも危ないこともあった。

寒さにふるえた日も、汗だくになって歩いた日もあった。
でも、ついにここまで来た。
アフリカ大陸は、すぐ目の前だ。

 

青い海にて。
シャワーで砂を洗う。
こんな空を久しぶりに見た。


バレンシアの市場の明かり取り天井。


 オレンジ畑にて。
よく見ると手の中にまだ青いオレンジの実が。


派手なキャンディー屋。
「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家みたいだ。


大小様々なサイズのパエリヤ鍋の前でオレンジお手玉。
南の国の食文化に力を入れる姿勢は、大好きだ。



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