イタリア編 〜


    2月21日(木) シラクーサ:晴れ タオルミーナ:晴れ

暑くて寝心地が悪くて早朝に目覚め、ホテル前のスーパーで水・パン・ハム・チーズを買って駅へ行く。もうホームには列車があり、僕は席についてマヨネーズを使ってサンドイッチを作った。パンもハムもチーズもそれぞれ美味い。

昨日の彼と見た、カターニャからシラクーサへ向かう景色を逆に進む。
入り江には沈んだ船が見えた。列車ギリギリの斜面で草を食む何十頭もの牛、紅い花をつけた大量のサボテン。

車掌さんに「この列車は、いつタオルミーナに着きますか?」と聞いたら「この人もタオルミーナで降りるから分かるよ。」と教えてくれ、言われた人もうんうんと頷いてくれた。

駅へ着いてすぐ、帰りの飛行機のリコンファーム。いよいよ旅は残すところ一週間を切った。名残惜しいような帰りたいような不思議な気持ちだ。

駅は海の近くにあり、街はそこから急な斜面を上がった山の上にある。
街へ行くバス乗り場が分からないので、車での買い物帰りらしい老シスターに尋ねると、「車に乗せてってあげるわよ」と言って助手席を開けてくれた。
こんな有り難い事はない!
ここのバスは少なくて有名なのだ。

車は、急でカーブのきつい斜面をぐんぐん登る。
どこまでも青い海と熱帯植物。背後にそびえる山は美しいなんて言葉では足りない。
「一人旅は大変でしょう」とか「私、日本人のシスターと会った事あるわよ」、「あの城まで行くと眺めがいいわよ」と流暢な英語で話してくれる。
ハンドルさばきは大したものだ。

後部シートにはパスタや野菜が山ほど積んである。買い出しなのだろう。
シスターは修道院に着くと僕を降ろしてくれた。何度も礼を言って彼女と別れ、僕は街を目指して歩く。

暑い。でも目に映る全ての物の美しさは、おそらく今までで一番だと思う。
眼下に、「美しい島」という意味の名を持つイソラ・ベッラが見えた。
ここは、映画「グラン・ブルー」の舞台になった場所である。

前から歩いてきた日本人二人にインフォメーションまで連れて行ってもらい、ホテルリストと地図をもらう。彼らは駅に向かうバスの場所が分からなかったらしい。行きは、何と歩いて登ってきたという。

一軒目のいかにも安そうなホテルは一杯で断られてしまい、二件目は閉まっていた。仕方なく、5万リラもするがさっきの二人の泊まったホテルに行く。

ちょっと高いけどダブルベッドにシャワー・トイレ・TV付きという今までで一番の部屋。
ヴェローナでいやいや泊まった6万5千リラの部屋がアホらしく思えてくるほどだ。

暑さでびっしょり濡れたTシャツを着替え、さっぱりした気分で昼食をとりに出かける。

メニューには、シチリア名物『パスタ・コン・サルデ(鰯のパスタ)』を見つけて入る。
ちょっとツーリスティックな店なのでヤバイかなと思ったが、これが美味い。一見トマトソースのマカロニなのだが、一口食べると鰯と潮の味と干し葡萄の甘みと、その他想像もつかない素材の味がしてアッと言う間に食べ終わってしまった。
いつも思うのだけど、美味いパスタをもう一皿おかわりするのは反則なのだろうか?

二皿目はカラマリ(イカ)とガンベリ(海老)のフライ。レモン半個をたっぷりと絞って食べる。これまた美味い。イカの新鮮な甘み、海老の歯ごたえ、レモンの爽やかな酸味。レストランの下は紺碧の海だ。

暑かったのでビールが美味く、次に頼んだ1/4白ワインも食事に良く合ってすぐに飲み干してしまった。でもワインはちょっとすっきりし過ぎ。昨日のざらっとした味の方が僕は好きだ。

フライを頼んだので全部で3万1千リラとかなり値は張ったが、大変満足だ。昨日4万の部屋に泊まったと思えば(思えないけど)、食事に費やす金はあまり惜しくない。

街の中央には展望台があって、そこから見下ろした海は今までのどんな海よりも美しかった。これを越えるのは、強いて言えばスリランカで見たインド洋くらいのものであろうか。

こんな完全な水平線を見たのは何年振りだろう?
僕はずいぶん長いこと、海というものの存在を忘れていた気がする。

ギリシャ劇場へ行ってみる。
シラクーサの劇場とよく似た造りだが、こっちの方が壁や柱が良く残っている。木のベンチが配されており、現役の劇場である事がよくわかる。
舞台うしろの壁が崩れていて、その間から午後の海が見えている。
例によって緑のトカゲがちょろちょろと歩いている。
トカゲにとって遺跡は住みやすい場所なのだろう。

劇場の後ろからはイソラ・ベッラが見下ろせたが、さっきの二人の話によると島はホテルになっていて、滞在者しか行けないらしい。
まあいい。日本に帰って映画「グラン・ブルー」を観て、また来た時にそこに泊まろう。

遠くにエトナ山がそびえ、火口から白い煙が出ている。
ここは、何て落ち着くところだろう。
シラクーサに比べると確かに見るべき物、行くべき場所は少ないのだが、僕はここがすっかり気に入っている。

本当にシチリアに来て良かった。人の意見とガイドブックは、本の参考にするだけで良いのだ。劇場には、すっかり腰を落ち着けてしまった旅行者が何人か居て、寝たり話したり、思い思いの時間を過ごしている。
僕も何だかんだと、ここに1時間近く居た。

日が暮れる前に丘の上に建つ中世の城、カステルモーラに登りたいと思い、バスターミナルへ向かう。

二組の日本人旅行者に会い、情報を交換する。
不思議な事に僕たち日本人は、ローマやフィレンツェなどの大都市では避け合うのに、シチリアなどの田舎に来ると助け合うのだ。
実際、モロッコ脱出の時は日本人同士の情報交換がなかったら危ないところだったのだから侮れない。

カステルモーラへ向かうバスは、ぎりぎり車一台通れるような道をいともたやすく登っていく。僕なんかはいつ脱輪するかとヒヤヒヤしたが、運転手は「こんなこと毎日やってるんだから」と平然としている。

ちょっと登り過ぎてしまった。終点の街はかなりの高台にあり風が冷たい。でも土産屋やツーリストメニューがあるので、観光客は来るのだろう。
運転手に頼んで城の麓で降ろしてもらい、歩いて登る事にした。

サボテンの棚田を、右へ左へ曲がりながら上る坂道。サボテンも大きくなると根本の方は堅い樹木のようになるのが分かった。
城に着いた。さっきの劇場やイソラ・ベッラが一望できる。

城は廃墟と化しているとは言え歴史を感じるし、美しい。
手すりが殆ど無いので落ちたら死ぬが、夕暮れの海もまた美しい。
海の向こうにはイタリア本土が見えた。
僕はこのシチリアの日々を忘れないだろう。

THE BEATLESの歌詞にあるような、長く曲がりくねった道を降りて街へ戻る。
かなりの急坂なのに、下からジョギングで登ってくるタフガイが居た。

酒屋で辛口のシチリア白ワインを買い、金物屋でコルク抜きを買い、商店でビールを買う。

遂に日が暮れた。
いよいよ明日はシチリアともお別れ。最後の地、ナポリに向かう。
長い道のりだった。

夕食をとりに出掛ける。今日はかなり予算オーバーだったけど、パスタ・コン・サルデを二度と食べられないのは辛い。
別の店で全く同じメニューを頼む。

ここのは量が多く、スパイスが強い。好みの分かれるところだが、僕は昼の味の方が好き。でもこの店のクセのある味もたまに懐かしくなるものだと思う。
店によってずいぶん違う。でも、どっちも美味い。

この店のフライには、カラマリとガンベリに加えて鯖のような魚が付いた。これが美味い。日本に帰ったら焼き魚が食べたいな、と思った。

ワインは普通。魚には合うが何にせよ昨日のワインは美味かった。まあ普通とは言ってもシチリアのワインはおしなべて美味い。
値段は昼と同じ3万1千。1/2ワインの分だと思う。

また夜中に目覚めた。変なクセになっている。それともまだシチリアを警戒しているのだろうか。明日は、まる一日移動日だ。



タオルミーナの街から、
海を見下ろす。


城砦の駐車場は、
ネコの社交場。


ギリシャ劇場。
舞台の向こうには、海が見える。


劇場の後ろから見下ろす海。
僕はこんな高台が大好きだ。


さらに高い場所にある、
廃墟と化した城カステルモーラ。


夕暮れの海を見下ろし、ご満悦の筆者。
旅が終わりに近づいている。


傾いてきた日が降り注ぐ、
タオルミーナの街。

左のほうに突き出ているのが
イソラ・ベッラ。



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