イギリス編 〜


1999年9月14日(火)
コンウィ:晴れ スランベリス:晴れ


朝起きると、体調はかなり良くなっていた。
これならスノードン山に行けそうだ。ロンドンのYHで会った神戸の大学生が教えてくれた登山鉄道に乗ってみたいのだ。天気が悪くなると途中で引き返すらしいが、今日は大丈夫そうだ。

朝食をとってYHを出る。街に下りてバンゴール行きのバスを待つ。
朝市をやっていたので覗いてみると、不足していたトランクスが3枚4£で売っていたので買う。偽(にせ)トミー・ヒルフィガーと偽カルバン・クラインのどちらにしようか迷い、偽カルバンを買った。

バスは時刻表に全く関係ない時刻に現れ、同じく全く関係ない時刻に僕をバンゴールで降ろした。
そこでまた僕は時刻表に載っていないスランベリス行きのバスに乗り換えて少し眠った。
いったいウェールズのバスは何を基準に走っているんだ?そんな事を考えながらも、思いの外よく眠る。
日陰は寒く、日なたは暑い。
スランベリスで運転手さんに起こされ、僕は通りの名も分からない所に放り出された。
適当に歩くと、YH入口の目印である商店があったので坂を登る。どうしていつもいつもYHは坂の上にあるんだろう?
周りは高い山に囲まれている。雲はない。
YHは牧草地の丘にあって、その中腹は階段のようになっている。
入口は閉まっていた。
物置小屋に荷物を置かせてもらおうと覗いてみたら何と古いコインロッカーが二つあったので1£払って使う。

良い天気だ。これならスノードン登山鉄道も間違いなく走るだろう。
登山鉄道の駅は少し遠くにあった。すでにたくさんの人が並んでいる。
ようやくチケット売り場に着くと、まだ12時前なのに午後1時半の乗車券を渡された。

仕方なく少し離れた店でフィッシュ&チップスを食べた。ここ最近当たり続きだったが、ここのは特に美味くはない。
広い道を、野良ヒツジが歩いている。
きっとどこかの牧場から逃げ出してきたのだろうと思っていたが、後で知ったところによるとこの街はそこら中草の生えているところはヒツジだらけで全然珍しくないことが分かった。

発車時刻が近づいたので駅に戻る。登山鉄道の座席は堅い木製で間隔は狭く、向かいの人とずっとヒザをくっつけたまま登る。
生まれて初めて乗る蒸気機関車。開通は何と1896年。3年前には大々的に100周年イベントをやったらしく、開通当時の古い写真が飾ってある。

列車は丘の上の一本道をガタガタとゆっくり進む。車輪は歯車になっていて、ギザギザのレールと噛み合って登るのだ。
時たま登山客が手を振ってくれる。あとは丘とヒツジばかり。
谷の向こうに湖が見えた。
遥か向こうの山陰は、アイルランドらしい。
山頂に雲がかかった。

僕は、この強い揺れの中で居眠りをしてしまった。
何せミニSLとは言え行程は1時間もあるのだ。

山頂駅に着く。白くガスがかかって肌寒い。

山小屋のような駅舎には簡単な喫茶スペースがあった。
コンウィのYHで同室だったオランダ人の2人組がお茶を飲んでいたので、お互い笑ってあいさつする。
雲の切れ間から、真っ青な湖と眼下の街が見えた。
登山客たちはその青さに息を呑んでいる。

犬を連れた登山客が多い。
こんな所になぜかカモメのような海鳥がいて、餌をねだっている。
そこかしこでヒツジが草を食んでいる。いったいどうやって管理しているんだろう。中腹に白い豆粒のように見えるのは、全てヒツジだ。
何にせよ、晴れて良かった。天気が悪いとすぐに引き返すので有名な鉄道なのだ。
乗客は老人が多かった。若者は皆、自分の足で登るのだ。僕も病み上がりでなければそうしたかった。でもまあ、この登山列車も珍しい体験だった。
山頂で許された時間は、たった30分。自分が乗ってきた列車にしか乗れないそうだ。
下りはさらに気持ちよく眠った。山頂でビールなんか飲んだらもっと大変だった(ガマンしてホッとチョコレートを飲んだのだ)。

だんだん霧が晴れてきて、麓の駅に到着。次の便の乗客たちが列車を心待ちにしていた。

駅舎を出た僕は、帰国便のリコンファームのため電話をかけた。
すでに必要ないシステムになっているらしく、欠航などの連絡のため最後の宿泊先を教えておけばいいらしい。
僕はHolland House YHの電話番号を告げ、念のため宿泊予約の電話もした。
もう時間は僅かしか残されていない。

今回の旅も、実に思い出深いものであった。
歩いた道、交わした言葉、暑かった日、寒かった日、たくさんの笑顔、出会った人々。
「良い旅を!」と誰かが言ってくれた。
僕もそれに笑って手を振り言葉を返す。
僕はもうすぐ25歳になろうとしている。
20代前半を締めくくるにふさわしい、素晴らしい旅であった。
僕にとって大切なマイルストーンがイギリス中に刻まれた。

街はずれの湖の芝生に寝ころんで、僕は実に清々しい気分になった。
またこんな旅をしよう。
旅人であり続けよう。

ハドックという魚のフライとチップス、どでかいチキンを食べて商店でビールを買い、YHに戻って冷蔵庫に入れた。

昨日の上智大生とまた会えた。Linnさんというオーストラリア人女性を連れてきて、一緒に夕食をとりに出ないかと誘うので、お腹はいっぱいだがビールを飲みにパブへ同行することにした。
そう言えば、もう風邪はすっかり良くなっている。

ラガーとアイリッシュ・レッド・エールを1パイントずつ飲んだらすっかり良い気分になってしまった。

それでも洗濯をして眠る。


スノードン山から碧い湖を見下ろす。

かつて見たことのない色だ。


山頂にて。

人に頼んだら、エライところで
顔がカットされちゃいました。

この頃はデジカメなんて無かったから、
撮れていることを信じるしかなかったなあ。


これまた良い青が撮れました。

左には、足元を流れる雲が写っています。



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