イタリア編 〜


1997年 2月14日(金) ボローニャ:晴れ パルマ:晴れ

ベッドにロープを張って干していた洗濯物は、あらかた乾いていた。

早い時刻にYHを出て駅へ行き、ラヴェンナ行きの列車を探したが2時間後まで無いという。
仕方なく予定を変更し、パルマへ日帰り旅行をする事にした。

昨日の武蔵野美大の学生と同行する。

駅売店にはイタリア語版「JoJoの奇妙な冒険」が売っていた。
列車は大幅に遅れた上に発車ホームの変更があり、僕たちは危うく逃すところだった。

久しぶりの良い天気だ。
彼とは2日後にフィレンツェのYHで再会する事になるかも知れない。

パルマ大聖堂前の洗礼堂の中に座る。
壁と天井には彫刻混じりのフレスコ画が描かれており、中央には洗礼盤があるが聖水は入っていない。
赤茶色と白の大理石のコントラストが印象的だ。

ドームを支える柱が、まるで柄のないコウモリ傘のようにてっぺんで一つになっている。

大聖堂と時計塔は、モデナと同じくらい仲良く傾いている。
中は比較的スッキリしていて彫刻より絵が多い。

こんなに近いのにモデナもボローニャもそれぞれ違った印象の大聖堂と街並みを持つ、違った街なのだ。

ゴルゴンゾラのピッツァとほうれん草(ニンニク味で美味い)とビールを食し、
大聖堂前の広場のベンチに座る。

まるで夏の午後のような日差し。
街は平和で、何ひとつ起こりそうにない。

早めにボローニャに戻る。
生協(coop)でオレンジとツナ缶を買って、またYHで夕食が食べられなかった場合の保険にする。

まだ明るいうちにYHに着く。
部屋には二人のバックパッカーがもう眠っていた。
僕もベッドに座って、もらった本の続きを読む。

庭のバスケットコートで遊びたかったが、相手がいないのでやめる。

そのうち日が傾いきた。
暗くて本は読めなくなり、食堂に行って二人の関西人女性バックパッカー達とオレンジを食べる。

幸運にも今夜は希望者が多く、夕食が出た。
おとといと合わせて6泊でたった2回。

今日はトマトソーススパゲティとオムレツだった。
デザートはブルーベリームース(ちょっとトイレの芳香剤に似た香り)。
さっきのツナ缶をサラダにかけて食べた。美味かった。

同室のパントマイマーが化粧を落としながら、口笛で不思議なメロディーを吹いている。
アラン・プロストのようなモジャモジャの黒髪で、全身タイツのような服。
少し後で、彼と話す機会があった。

「マルセル・マルソー知ってるんだ?へえ。でも彼はあまりにもビッグだね。
 僕はポルトガルを出て7年、ヨーロッパ諸国でパフォーマンスをしているんだよ。

 うん、お金は大切だよ。でも僕は自分のためにパフォーマンスをするんだ。
 音楽なし、セリフもなし、衣装は黒・白・赤のみだ。その3つが好きなんでね。
 道具は胸と髪につけた二つの花だけ。

 このあとヴェネツィアに行って、夏までにはいろいろ回ってドイツに行くよ。」

 彼は暗い廊下で煙草の青い煙を吹き出しながら静かにそう語り、
「もう寝なきゃね」と言って僕たちは床についた。 まだ10時過ぎだった。



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