1994年 9月 19日(月)
コルドバ:晴れ
マドリード:晴れ


駅に荷物を預けて、マドリードの街を歩く。

とても寒い。
気温は、7℃から日が昇ってやっと15℃くらいまで上がった。

確か昨日の夕方は27℃くらいだったのに、とにかく朝は寒い。
北上したせいもあるのだろう。

プラド美術館まで歩くが、閉館日。
その大きさを見てちょっと圧倒されたので、内心ホッとする。
まだルーブルの食傷が残っているのだ。

中央郵便局で手紙を出す。大きいホール。
若者から神父さんまで皆忙し気に手紙を出している。

ふと、もう田舎に行かれないことが残念に思えてきた。
これから行くのは都会ばかり。
あんなに疲れさせられたスペインの南さえも、何だか懐かしく感じられた。
いつか、何年後かにまた来よう。

ソフィア王妃美術館へ。
現代アート専門で中には訳のわからないものもあったが、ピカソの「ゲルニカ」には圧倒された。
小型のプールくらいの巨大な絵。
中央の電球のような光と、もだえ苦しむ人々や馬。
爆撃の悲惨さを物語る。
左右にはその習作。
馬ひとつとってもだいぶ推敲したらしく、何枚もの落書きのような鉛筆画があった。
この絵は何としても観たかったのだ。

夕方6時15分発のパリ行きを待つ。

時間が余ったので寄ったデパートには、何と狩猟用品コーナーがあった。
そこで記念にコンパスを購入。
ハンティングは釣りやキャンプと似た扱いを受けている。
ショーウィンドウには、本物の猟銃。
銃のケースやホルスターも当然のように売られていた。

スペインともお別れ。
未練はないが、何ともいえず悔しさのようなものが残る。
このスペイン時間に基づく生活も体得しきっていないし、本当に美味しいパエリヤを出す店も見つけられなかった。
メニューも読めなかったから食べたいものも食べられず、BARの楽しさをちゃんと味わったのは、誕生日前夜の一度だけだった。

僕はまだ本当のスペインの素晴らしさを知らないんじゃないだろうか。
この国の人々がこんなに楽しそうに生きて美味しそうに物を食べているんだから、きっと計り知れない魅力があるんだろう。
是非また来てみよう。

夜行列車に乗ったが、まだ夜じゃないから3段ベッドの中段が畳まれていて、向かい合わせのコンパートメントみたいになっている。

同室は若い夫婦。
僕達は邪魔者だが、笑顔で迎えてくれた。

パリに着くのは明日の朝10時過ぎだ。
リコンファームをまだしていないが、駄目ならその時は何とかしよう。
何もアフリカ大陸に閉じ込められたわけじゃないのだから。

窓の外では同室の2人の親らしい老夫婦が、小さい男の子を抱いてしきりに手を振っている。

列車は動き始めた。
明日はパリだ。

車窓からの風景はあまりに荒涼としている。どこまでも何もない。
やがて日が沈み、北へ向かう列車は一瞬だけ昼と夜を二分し、いつの間にか西から来た闇に飲み込まれていった。

満月が出ている。

 
マドリード市内の騎馬警察官隊。



Next


戻る

TOP