僕はバスに飛び乗って、街へ続く急な坂道を下りた。 冷たい空気が頬を掠める。 昨日の女の子は、まだ眠っているだろう。 さよなら。お元気で。 ペンザンスに向かう長い列車の中で、僕はしばらく眠った。 目を覚ますと、車窓からは連なる丘や羊たちの姿が見えた。 僕は旅を続ける。 もうすぐペンザンスに着くという頃、列車は小さな駅に停まった。表示板を見ると、駅名の下に「To St. Ives」と書いてある。 僕は荷物をつかんで列車から飛び降りる。 ガイドブックにセント・アイヴスの小さな写真が載っており、僕はそれに惹かれていたのだ。 小さな支線はすぐに発車し、しばらくすると右手に水色の海が広がった。 僕は立ち上がって海を見下ろす。 実に久しぶりに海を見た気がする。 セント・アイヴスは小さな港町で、僕はここが一目で気に入ってしまった。 小さな路地に立ち並ぶ色鮮やかな家々、水色の海。 浜辺にはベンチがあり、僕は黒い犬の隣に腰掛けた。 小さな兄弟がカモメにポテトチップスを投げている。 港には、赤・モスグリーン・ネイビーブルー・鮮やかな黄色など色とりどりの小舟が浮かんでいる。 海に面した店でフィッシュ&チップスを食べた。ロンドンとは比べものにならないほど美味い。小さな紙カップに入ったムール貝も食す。自分が今海に居ることを実感した。 海沿いの道から一本入った通りはこの街のメイン・ストリートで、いろいろな店が軒を連ねていた。画家やアーティストの多い街と聞いた通り、ウィンドウにはペイントされた食器や絵・置物などが並んでいる。 ここは、イタリアのカプリ島に似ている。 僕は、シチリアからの船で出会った2人と歩いたあの夏のような3月の日を思い出した。 調べておいた帰りの列車に乗り、今度こそペンザンスへ。 左手に海が見え、遥か遠くに修道院のある小島が見えた。 ペンザンス駅に着く。 あさっては湖水地方に向かいたいので、その入口となるウィンダミア行き列車の時刻を訊く。何と朝の7時20分に出て夕方の4時過ぎに着くそうだ。 金曜日はまるまる一日、移動日となりそうだ。読書に充てるとしよう。 ペンザンスのYHは街からかなり離れており、着いた頃には汗だくだった。 しかし森の中の静かで良い所で、ベッドも綺麗だ。 細かい雨が降り始めた。 幸いYH内にはメニューの豊富な食堂があるので、遠い街まで足を伸ばして夕食をとるのはやめよう。 レセプションの男はイタリア人のように陽気に、踊るように仕事をする。 客の対応をしながらかかってきた電話を受け、片手でシーツとキーを用意し、歌うように朝食のメニューを読み上げる、といった具合。 僕はすっかり感じ入ってしまった。 今までで一番立派なシャワーを浴び、夕食。 チリ&ライスで見た目は美味そうだがやっぱりここはイギリス。物足りない味だったので醤油と大韓航空でもらったコチュジャンをかけて食べた。 やっと洗濯ができたが、雨はいつまでも降り続く。 このYHには室内物干し場があって助かった。 夜遅くにようやく雨は止んで、僕はジャケットを羽織ってロンドンで買ったウィスキーの小瓶をポケットに入れ、前庭の芝生に座って昨日と同じように美しい星空を見上げた。 森の中なので暗く、空気はひんやりとしている。 僕は部屋に戻り、ベッドに潜り込んで眠りについた。 |
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セント・アイヴスの海岸。 綺麗なところです。 わざわざ行って良かった。 |
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カモメが!! 実はこの写真、狙って撮りました。 たくさん居たので簡単でした。 |
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さっきまでは海だった場所が、 潮が引いて砂浜に。 船も乗り上げちゃってるけど いいのかな? |