イタリア編 〜



    2月27日(木) ローマ:小雨のち晴れ

窓を開けると小雨がぱらついている。
フライトは夜なので今日一日をどうにかして過ごさなければならない。

しかしどこかへ行こうにも今夜はシャワーが浴びられないので雨に濡れたくないし、ローマで行くべき場所と言えばボルケーゼ公園とカタコンベくらいしか残っていないが、どちらも雨の日には不向きである。

とりあえずシャワーを浴びて荷作りをする。
シャンプーやアンダーウェアを捨ててリュックの隙間を増やし、土産を入れる。
ロンドンではやたらたくさん服を買ったので、このリュックがパンパンになった上にショルダーバッグをくくり付けたが、今回はまだまだ余裕がある。
でもこれ以上物を買う気もない。
あとは仕事場の図書館のためにお菓子を買うくらいだ。
ずっと腰の貴著品ポーチに入れていた航空券とパスポートを、取り出しやすい首掛けポーチに入れ直す。いよいよ出発するのだ。

ホテルを引き払って荷物をテルミニ駅に預けると、本当にする事が無くなってしまった。
しかし、マクドナルドで朝食をとっていると、晴れ間が見えてきた。
僕は気を取り直して、ボルケーゼ公園の方に歩き出す。もしかしたら動物園にも行くかも知れない。
近くに大型スーパーがあるようなのでもう少しだけ友人にお土産を買おうと思いついた。
所在地はコルソ・トリエステという手持ちの地図に載っていない通りなので人に尋ねて歩く。警官にきき、老婦人にきき、中学生くらいの女の子2人連れにきき、おじさんにきき、老夫婦にきき、やっと辿り着いた。
日本で言えばせいぜいヨーカドーを一軒見つけたくらいの事なのに、僕は「やった!」という気になった。

昨日バスケ・ペンで遊んだらすごく面白かったので、キャンプ仲間の弓田にもあげようと思って購入。隣にあったボイス・チェンジャーは値札が間違えて貼ってあったが、レジに尋いてみると2人の店員が何やかや相談して値札通りでいいという事になった。
イタリア人のいい加減さも時には良いものだ。

バスでテルミニ駅に戻り、いつものOsteriaで昼食。
珍しく日本人が僕の他に一組しかいない。
今日はツーリスト・メニューをやめてビーフステーキを頼んだ。レモンをたっぷりかけられて美味いのだが、向かいのおじさんのと明らかに大きさが違った。
でもまあ、美味かった。これがイタリア最後の食事となる。思えばいろんな食事があった。

シエナでマルコとアントニエッタに出会った夕食、アオスタのピザ焼きライブ、ヴェネツィアのカサ・ミアでの6回の食事。ボローニャでのマルコとの再会(ご馳走してもらった)、シラクーサで金欠男とベンチで食べたパン、ナポリではカヨコさん・ジュンコさんと夕食後にワインまで飲んだ。
旅の想い出は、食事についての事柄が一番ディテールに及んで思い出せる。
あのナポリでさえ、食事に関しては文句のつけようのない場所だった。
そう言えばヴェネツィアの蛸のサラダは2軒とも美味かったなあ。フィレンツェで食べたトルテリーニは不味かったけど、マルコの店で食べたら全然別の料理のように美味かったなあと、まるで2年前にエッフェル塔からパリの街を見下ろしてヨーロッパ各地を思い出した時のように、料理が、味が、店が走馬燈のように駆け巡る。

これがイタリア旅行の醍醐味というものだろう。
シャワーはまともにお湯が出ないしスリやジプシー、置き引きには常に気を使うし、ストはちゃんとやるくせに列車もバスも平気で遅れるが、食事に関してはここを越える国は中国か日本くらいだろう。

早めに空港へ向かう。
午後4時、フィウミチーノ空港着。行きは夜だったので外は殆ど何も見えなかったが、今はもう雲も晴れて太陽が眩しすぎるほどだ。
チェックインは6時からなので、僕は荷物を仕分けたり、日記を書いたりする。食べ物について書いていたら腹が減ってきたので、最後のカロリーメイトをかじる。この国には、持ってこなくても良かったな。

マシンガンを持った警官が立っている。
赤いワイヤーで作られた、嫌がらせのように座り心地の悪いベンチに座り、人々は飛行機を待っている。こんなベンチを用意してストをするんだからアリタリアも凄い会社だと思う。

早めにチェックインしたので、通路側の席が取れた(成田では希望なんて聞いてくれなかった)。
搭乗開始は8時20分からなので、売店を見て回る。免税店はたくさんあるのだが、特に欲しい物はない。当たり前だ。僕はローマで3泊もして買い物三昧だったのだから。自分に買ったのはネクタイだけだけど。
それはさて置き、空港というのは楽しい施設だ。小学生の時、兄がアメリカに行くのを見送って以来、僕は空港が好きになった。
だから搭乗までの4時間半も全然退屈なんかしなかった。
大学時代ずっと働いていた図書館と教務課にチョコレートを買い、ジュースを飲んで残りの小銭を募金箱に入れて終わり。
いつの間にか外は暗くなっている。ロンドン以来2度目のナイトフライトだ。
すぐにでも眠れそうである。

通路側を指定したのは良いのだが、最前列でスクリーンのまん前だった。
眠くて映画を観るつもりもないし足も伸ばせない。

すると幸いにも、隣に座った韓国人男性が奥さんと離れ離れになってしまったと言うので席を代わる。中央で出にくいが、眠るには良い。
と思っていたら、また隣の人に代わってくれと頼まれた。今度の席は右側の真ん中。もうどうでも良い。
隣は韓国人のビジネスマンで、日本語が話せる。サムスンの輸出の仕事で日本にもしょっちゅう来ているらしい。
「ビジネスは忙しいし疲れます。大学を出てからずっとこんな生活なんですから。もう僕課長ですよ。」40歳くらい。きっとバリバリのエリートなんだろう。

彼とビールで乾杯して機内食を終え、あっという間に眠りに落ちる。映画をやっていた事にも気流の乱れにも全く気づかず、こんこんと眠った。こんなにぐっすり眠ったのは実に久しぶりだ。イタリアではずっと貴重品やドアの外の物音に気を張っていたのだ。

目が覚めると到着2時間前。イタリア時間では朝6時頃。日本時間では午後2時頃であった。
小雨の降るソウル空港。彼は棚から子供へのお土産のおもちゃを取り出す。
僕たちは握手をして別れ、彼はソウル市内の自宅へ。僕は成田へ向けてトランジット。
いつも乗換えで経由するだけなので、一度ソウルにも訪れてみたいものだ。




短いフライトで成田に着く。
ポスターや看板で久々に日本語を見てホッとする。

帰国ゲートをくぐると、
何と高校の友人たちが迎えに来てくれていた。
嬉しさで思わず笑顔になる。

帰ってきたよ!


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