イタリア編 〜


1997年 2月10日(月) ボローニャ:晴れ

シャワーを浴びて、実に20日振りにヒゲを剃る。
クレアが、例のローライで写真を撮ってくれると言うのだ。

パンとココア(薄いミロみたい)の朝食をとり、皆でバスに乗って街へ向かう。
駅前で日本人バックパッカーと別れ、クレアは今夜スイスに向かうためにバッグを預ける。

レオンは世界最古の大学であるボローニャ大学への入学手続きに行く。
その途中で通った噴水広場で、クレアが僕たちの写真を撮ってくれた。

二人と別れて大聖堂に座り、高い天井を見上げる。

そのようにして昼になり、旅は後半に入った。
今日の昼がちょうど37日間の旅の、時間的な折り返し点なのだ。
いろんな事があった。

シエナの「キアケッラ」で出会った、マルコ氏のリストランテに行く事にする。
とても分かり易いところにあったのですぐに見つかる。
奥から出てきたマルコは僕の名を呼び、笑って握手してくれた。

「あれからハルキ・ムラカミの本を読んだよ。」と言って見せてくれる。
タイトルは「Tokyo Blues」。
何だか演歌のタイトルみたいだが、読んでみると『ノルウェイの森』の伊訳版だった。
「僕は昔、精神病患者の施設で働いていたんだ。
 だからナオコに関するところはすご興味深く読んだよ。
 ところで、これの前に書かれた羊の話は何ていうの?」
「それは『羊をめぐる冒険』です。」 午後1時とあって、だんだん混んできた。

マルコはメニューを出さず僕を見て料理を決め、トルテリーニを出してくれた。
僕はフィレンツェであまり美味しくないトルテリーニを食べたのでちょっと警戒していたが、これが美味い。小さいワンタン状パスタの中にスパイスの効いた肉がたっぷり入ったスープ仕立てのトルテリーニ。

セコンド(2皿目)は、ダックの胸肉のソテー。
プラムとビネガーのソースがちょっと甘いかなと最初は思ったが、これまた美味い。
「Buono(美味しい)!」と僕が言うと、満足そうに笑ってくれる。

別にお世辞じゃない。本当に美味いのだ!
ついついワインを飲んでしまう。結局1/2リットル飲んでしまった。
しゃっくりが止まらない。

「奥様は?」と訊くと
「ははは。アントニエッタはガールフレンドだよ。」と笑った。ビックリしたが、素敵な関係だと思った。

「今日はちょっと忙しいから一緒にお話あんまり出来ないけど、またボローニャに来てよ。その時は案内するよ。」と言ってくれた。

食事が終わってコーヒーを出してくれ、そろそろお別れの時が来た。
「シニョーレ・マルコ。とても美味しかったです。あなたにまた会えて良かった。」

勘定を払おうとしたら、また止められた。
「僕も、君と話せてよかったよ。来てくれてありがとう。」
さすがに2度目なので(シエナではアントニエッタが払ってくれたらしい)僕も頑張ったが、全然取り合ってくれない。
「じゃあ、日本に来る時は絶対教えてください。僕が美味しい日本料理をご馳走しますから。」と言うと、
マルコ氏はにっこり笑ってくれた。
「Signore Marco, arrivederci!」と言い、とてもとても幸せな気分で店を出る。

印象深い一日だった。

午後3時半をまわる。
マルコに会って元気をもらった僕は駅に向かい、クレアに最後のお別れを告げに行く。
4時の列車で出ると言っていたが、時刻表を見てもスイスに直行する列車はない。
きっと乗り換えをするのだろう。 駅はストライキ明けで人が多い。

まあ、会えなくてもそれはそれでいいなと思っていたら、ホームに出てすぐの所にクレアは立っていた。
僕はお別れの挨拶をして、彼女は微笑む。

クレアがミラノ行きの列車に乗り込むのを待たず、僕はホームを後にした。
多分、今生のお別れになるだろう。 クレアに会えてとても嬉しかった。

昨日と同じバスでYHへ向かう。 空き地から見えた沈み行く太陽が、やけに馬鹿でかかった。

関西人のバックパッカーと一緒に、夕飯をとりに出かける。
豆のスープのパスタは、パンを浸けて食べられるのでお腹一杯になる。
それとローストポテトとビール。
席料が5千リラとバカ高かったが、郊外なので他に店もないしまあ味も良かったので良しとする。

和食の話をしたり(思い出して食べたくなってしまい、つらかった)、彼が旅してきたベルギーやオランダ・ドイツの話を聞く。
ドイツのYHでは学生の団体にビールを振る舞われてドンチャン騒ぎだったと言う。
彼はベルギーをとても気に入っているらしい。

YHに戻ると、レオンが自分の荷物を取りに来た。どうやら学生宿舎への入居が決まったらしい。
お祝いに一緒に写真を撮って別れる。

10時半くらいまでさっきの彼と話して部屋に戻ると、すでに照明は消えていた。

皆を起こさないよう小さいライトで風呂用品を探した。
すると同じように苦労していたドイツ人らしい旅人が小声で
「それいいね、ちょっと貸して。」と言って来た。このライトはドミトリーでいつも大人気だ。

シャワーを浴びて就寝。

明日はマントヴァに行こうかな。


スイス人写真家のクレア。


マッジョーレ広場。
三つ股の矛を持つ、海神ネプチューン像。


僕の写真を撮ってくれるクレア。


レオンとお別れの一枚。
イタリア編最初の地図に
ポール・オースターの書き込みをしたのが彼。



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