1994年 9月 1日(木) ブレーメン:雨 ベルリン:曇り
 

6時半に起床。

窓の外には大きな河が静かに流れている。
空は暗く曇り、冷たい雨が降っている。

この街は、今回の僕達の行程の中で最北端の地。今朝はまるで、
もう冬が来てしまったかのようだ。
 
ゆっくりしていたら、ベルリン行きの列車の時間が近づいてしまった。
停留所まで走り、ちょうど来たトラムに飛び乗る。

駅のスタンドで、タイムテーブルを見ながら朝食。
ソーセージとハムを挟んだクロワッサンと暖かいコーヒー。
モヒカンとスキンヘッドの少年二人組が通る。昨日見た赤モヒカンといい、ドイツはパンクが多い。

プラットフォームには冷たい風が吹いている。雨の水気を含んでいて、とても寒い。パリの涼しさの比じゃない。耳が冷たくなるほどだ。
セーターを着込んで、やっと心地よくなった。

ドイツ超特急ICEでベルリン動物園(ZOO・ツォー)駅に向かう。
予約でいっぱいだったので、仕方なく車両連結部で過ごす。あの
快適そうなシートに座ってみたかった。

ハノーファー駅で乗り換え、ようやく座れて少しだけ眠る。
窓の外にはトウモロコシ畑や牧場、煉瓦造りの小さな駅が続く。

ベルリンは広い街で、爆撃のせいかすっかり近代的だった。
動物園のパンダ舎側入り口は江ノ島駅に良く似た竜宮城のような
東洋風建築。とてもドイツとは思えない。

駅前にはカイザー・ヴィルヘルム記念教会。
第二次大戦の砲火で崩れたまま、近代的なベルリンの中で戦争の傷跡を残している。隣の新教会との対比もまた痛々しい。尖塔のてっぺんは、まるで食べかけの”とんがりコーン”のように崩れ落ちている。

確かに、かつて戦火がこの街を包んだのだ。


カイザー・ヴィルヘルム教会。
手前は礼拝の為に新しく建てられた新教会。





インフォメーションで安いホテルを紹介してもらい、荷物を置く。
ハンバーガーで昼食を済ませ、かつて東西ベルリンを隔てていた壁の跡を目指す。

バスに乗り、ベルリンの街の中央に位置する戦勝記念塔を横切る。
広い前庭を持つ大統領官邸(ベルヴュー城)から川沿いに進み、巨大でいかめしい旧帝国議会の前でバスを下車。

すぐ真裏が、かつてベルリンの壁があった所。
現在はただの道路だ。
まるで、何事もなかったかのように人々が行き来している。
東西ドイツ統一の象徴、ブランデンブルグ門がなければ本当にここにあの壁があったなんて信じられない。
映画や本でこの壁を越える苦労を見てきた僕には、どちらが現実なのかわからない。

旧東ドイツ産の紙で出来た車、トラバントがけたたましい音を立てて走る。

荘厳なフンボルト大学、パイプオルガンの調べの美しい大聖堂などを巡るが、どうもこの街にはなじまない。都会、曇り空、戦争の跡。

同じドイツでもブレーメンはあんなに楽しかったのに。

フリードリッヒ駅でプラハ行きの乗車券を予約した。
スーパーでビールを買い、チャイニーズフードの屋台でチキンバーガーを買い、スズメと鳩にパンくずをまきながら駅前の寒々しい小さな噴水広場で食す。


フンボルト大学。


帰りのバスで僕の前の席に座っていた家族には、小さな女の子が居た。

背もたれごしに僕をちらちらと盗み見ては、目が合うと笑って、次に変な顔を作って見せてくれる。

そのたびに、沈み気味だった僕はだんだん楽しい気分になってきた。

外国人が珍しいのか、彼女流のコミュニケーションなのだろう。どこか寂しげだったベルリンの街で、ささやかな救いを得た。

僕達の部屋にはシャワーが無いので、他の空き部屋に浴びに行く。

Zoo駅のスーパーでワインとチーズ、シェーバー、牛乳、水を買った。

明日は中欧、チェコのプラハに向かう。
良いところだといいな。

 

ブランデンブルグ門。
「平和」を表現したかったらしい。


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