その8 ホノルルマラソン奮戦記 【 1 】


小学校の頃から長距離走は本当に苦手で、1500m走の日さえも憂鬱で仕方なかった。
それが20代半ばになってから、友人に誘われた駅伝に参加するため渋々走るようになり、
2度の駅伝(僕は5km区)とハーフマラソンにまで参加した。

走り始めて1年が過ぎた頃、「ホノルルマラソンに参加しないか?」という話が持ち上がった。
夏休みの間キャンプや旅行を言い訳にほとんど練習をしていなかった僕は最初面食らい、
「とんでもない、走れるはずがない!」と思った。

小学校のころ、新宿から青梅までの43km飲まず食わずで歩く大会があり、何度か参加した
ことがあるので、フルマラソンの距離感は分かる。自分の足で踏破することはできるだろう。

しかし少し前にハーフマラソンを走ったので、その距離を"歩くのではなく、走るのだ"と言う
ことがどんなにツラいかも、なんとなく分かるのだ。

それでも僕は参加することに決めた。
走りつづけることに喜びを見失って来ていたし、「ここまでやったんだ。」という目に見える
自分なりの成果も手にしたかったのだ。

本番は2003年12月8日。第30回の記念大会だ。

形から入る僕は、仲間と陸上専門のスポーツ用品店に行き、シューズを選ぶところから始めた。
できればNikeかNewBalanceの格好いいモデルが欲しい。
しかし店員は、執拗に日本のメーカーの物を薦める。
いつもなら一歩も引かずに自分の気に入ったものを買うが、今回はフルマラソン。レース中に
「あの時素直に聞いていれば…!」という後悔はしたくない。
半信半疑で履いてみたミズノのシューズは、悔しいが明らかに履き心地がいい。
何度履き比べてもその差は歴然。
デザインはちょっと気に入らないが、仕方ないと自分に言い聞かせて購入。

翌日にそれを履いて走ってみると、まるで足に羽が生えたかのように体が軽く感じた。
「やはりこれを買って正解だ。今日から毎日頑張ろう!」とは思ったのだが、連日遅くまで
予定が入っており、ロクに練習もできないまま前日を迎えてしまった。
そのシューズで実際に走ったのはたったの2回だけ。

いつもは自力で歩く個人旅行で、荷物は限界まで削るのが習慣になっていたが、今回は
気楽なツアー。ホテルまでバスが届けてくれるし、移動も無し。

思いつき順にバッグに放り込むのも楽しいものだと知る。僕は旅の荷作りが大好きなのだ。
短パンにメッシュの白い帽子、シャツ、手袋を用意。飴やサプリメントを入れる
ウエストバッグは、小学校の時に買った物を採用。
シューズは場所を取るので、手持ちではなく履いていくことにした。

成田空港で夜の8時に集合したメンバー7人は、さっきまで仕事をしていた者が多く、
「ハワイに行くのだ。しかもフルマラソンを走るのだ」と言うことをまだ誰も現実として
感じていない。空港のレストランで食事をし、ビールで健闘を祈念する。

いつも格安航空券で大韓航空やタイ航空を利用する僕は、初めてJALに乗った。
機内は日本人ばかりで、スポーツウェアやそろいのTシャツを着た人が多い。
きっとほとんどがマラソン参加者なのだろう。

機内食とビールを平らげると突然眠くなり、結構激しいアクション映画「トリプルX」を
観ながらも深く深く眠り込んでしまった。
目が覚めると、手元の時計では深夜だというのに右の窓からは朝日が見えて、飛行機は
溢れる光の中を飛んでいた。

ホノルル空港はスタッフも日系人が多く、全く外国に来た気がしない。
カラリとした初夏のような気候の中、バスでアロハ・タワーへ。

JTBによるオリエンテーションを聞く。
「お土産はお得なセットをどうぞ。お買い物はここで…。」と、
修学旅行よりシステム化された説明を聞く。皆、こんなルールに従って滞在しているのか?
それで知らない国に来た楽しみはあるのだろうか?

外に出てハンバーガーで昼食。タンクトップにホットパンツという過激な店員のコスチュームが
売りの店らしく、5ドル払えば一緒にポラロイド写真が撮れると言う。シンディ・クロフォードの
ような長身のブロンドから、武蔵丸のような愛嬌のある女性まで、タイプは様々。

ハンバーガーもすごい量だが、ドリンクは裕に1リットル以上あり、みんな飲み残してしまった。
2人で1つでも飲み切れたかどうか怪しい。

マラソンコースを走るバスに乗って、本番の下見。

海岸から市中に入り、カメハメハ大王像の前を通って再び海岸へ。この時点で5km。
大通りを海沿いにひたすら走り、ダイヤモンドヘッドを上る。それを超えたら緑の住宅街を抜け、
ハイウェイ(当日、車両は封鎖されるらしい)に出る。まっすぐな道をどこまでも走る。

この辺でみんな眠くなってしまい、7人中起きていたのは2人。
湖を一周して、来たハイウェイを戻る。ここで僕も睡魔に負けた。

バスではおよそ40分ほどの道のり。坂道のキツさも、この時点では分からなかった。
近くで降ろしてもらい、オハナ・ウエスト・ホテルへ。高級ではないが、快適なホテルのようだ。


今夜は、マラソンの前夜祭が行われる。
本番は明後日だが、早朝5時スタートなので、本当に前夜に祭をやったらキツイのだ。

渋滞のためバスが来ないので、夕暮れのビーチをのんびり歩く。
雲の切れ間から夕日の光が差し込んでとても綺麗だ。

動物園近くの会場にはすでに長い長い行列ができており、ゆっくり進みながら入場を
待っている。最後尾まで歩くのにもひと苦労だ。池や木々を配した美しい公園。

開場にはビュッフェのテントと、冷えたバドワイザーを満たしたタンクローリー車があり、
もうたくさんの人々が食事をしていた。

メニューはカレーにポーク、ロースとチキン、パスタ、サラダにデザートと盛りだくさん。
夜は涼しいとは言え、ここはハワイ。昨日までの冬日から離れたのが嬉しく、僕は何度も
何度もバドワイザーをお替りした。

ステージ上では超有名ウクレレ奏者のジェイク・シマブクロのライブが行われていた。
何人ものプレイヤーが同時に奏でているかのように、5本の指全てを巧みに使った煌びやかな
演奏。まるで12弦ギターかチェンバロの速弾きのようだ。

続いて、何とビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンのライブ。"surfer girl","Don't worry baby",
"In my room"などなど、僕の大好きなアルバム「Endless summer」からもたくさんの曲が
歌われた。僕は波乗りに行く日、車で必ずこのアルバムをかける。

声はだいぶくたびれていたが、カヴァーでも何でもない、正真正銘のビーチ・ボーイズだ。

細かくて冷たい雨が降ってきた。名残は惜しいが、帰る時間。 結局13杯のビールを飲み干し、
ホテルに戻る。

明日は早起きしてジョギングの予定。

成田空港出発前。
これから南の島に行くのに、
季節はまさにクリスマス。


ホノルル到着後。
無計画に大量のランチをとる我々。
でも美味かった。


まさに『Merry Chrictmas in summer!』
真中の衛兵さんは、
連れではありません。


前夜祭会場へ向かう途中で見た夕陽。


前夜祭。スバラシイ気候のおかげでビールが美味い!

飲みすぎてしまい、レース中ずっと
お腹と自分を苦しめることになった。

厳しいスポーツだって事を甘く見ていた。


前夜祭にて。左上のステージで演奏しているのは、
何とビーチボーイズのブライアン・ウィルソン氏です。



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