特別追悼文

「長さん、ありがとう!!」



いかりや長介さんが亡くなったという事を、
旅先で聞いた僕は耳を疑った。

みんなで金を出し合って
「8時だヨ!全員集合」のDVDを買い、
泣くほど笑ったのがついこの間だったのだ。

幼稚園の頃からずっと僕が夢中で見ていたこの番組は、
当時はPTAに「子供に見せたくないワースト番組」として相当叩かれた。

でも長さんは言葉じゃなくコントで、クールに教えてくれた。

「子供に見せたいと思うもの」より、
「子供自身が見たくてしょうがないもの」を作るほうが
どんなに難しくて、しかもカッコ良いことか。


正論で批判する人の声はきっと、
彼にとってはどうでも良かったんじゃないだろうか?

会場で、TVの前で、噛り付くようにコントに夢中になっている
僕たちガキの大騒ぎだけしか聞こえていなかったのだろう。

誰かが強烈に求め、待ち望んでいる。
そんな仕事ってどんな気分だろう?
ものすごい気持ちいいんじゃないかな?

僕が生まれて初めて書いたハガキは、
「全員集合!」の観覧希望だ。
字を覚えたてだったので、たぶん
母親が大部分を書いてくれたのだと思う。

そのハガキが、忘れもしない渋谷公会堂へ連れて行ってくれた。
コントは学校もので、長さんはもちろん先生だった。

正直に言えば当時、僕の目当ては志村けんで
イタズラの標的である先生は憎まれ役だった。

その他にも長さんの役回りといえば、
親や会社の上司など権力や体制の象徴ばっかり。
それを悪行の限りを尽くしてことごとく落とし入れる
志村けんや加藤茶こそが僕らのヒーローだったのだ。

しかし、憎まれ役の長さんが弱くてはコントは成立しない。
奇想天外のタイミングと方法で攻撃する志村けんたちも、
それを見て狂喜する僕たちも、
結局は長さんの大きな掌(てのひら)の上で
遊ばせてもらっていたのだ。

その遊び場は、教室やゲームより遥かに魅力に満ちていた。
笑いだって毒だって、エッチな事だって、
僕たちが望むものなら何でもあった。

それでも何だかんだ言って親がこの番組を見せてくれたのは、
結局は大人たちにも信頼されていたからだろう。
ただ単に悪い事を子供に教える、
近所の怪しいオッサンじゃないと分かっていたのだ。

 * * * * *

どの世代の子供にも、憧れの大人たちがいる。
夢中になって「これだ!!」って事をやってる人たちだ。

ある人にとっては消防士や看護婦さんかも知れない。
音楽家やスポーツ選手って人も多いだろう。

「ちびまる子ちゃん」のさくらももこさんにとっては
青島幸男さんやクレイジーキャッツがそうだったとの事だが
僕たちにとっては、長さんとドリフターズこそが憧れなのだ。

早くこんな大人になりたい!
彼らが見せてくれた警官やサラリーマンってのになってみたい!
友達と彼らの真似をするのが楽しくて仕方なかった。

決して無菌室のような清潔さはなかったが、
そんなわけで僕達は大人になっていくという事が嬉しくて、
怖いとか面倒くさいとは全く考えなかった。

今の子供は無気力だとか夢がないとか言う親は多いけど、
TVゲームをいったん没収してドリフ見せるのも良いかも知れない。

少なくとも、「笑われる芸人」と「笑わせる芸人」の
違いくらいは分かるかもしれない。
どの職業でも、そんな小さな違いが決定的なのだ。

 * * * * *

長さんのスゴイところは、
強烈に記録的にとんでもない事をやっておきながら、
「それは置いといて」って感じで、ひけらかす事なく
真摯に新しい挑戦を続けていく事だ。

俳優業ではあんなに渋く決めておきながら
織田裕二を「先輩」として敬い、
本業だったベースを持っては孫ほども歳の離れた
TOKIOとセッションを楽しむ(彼らが羨ましかった)。

ただ単に愛想よく優しくして、若者に迎合する大人は多い。

逆に、自分の考えを押し付けて説教する大人も多い。

長さんはどちらでもなく、あくまで対等に
若者の良いところは認め、
求められるものはそれとなく見せてくれた。

僕が72歳になった時、果たして
こんなカッコいい大人になれているだろうか?

残念なのは、もうあなたにそれをお見せできない事ですよ!!

何十年経っても、長さんは僕にとって憧れの大人であり、
挑戦するべき大きな目標なのだ。


 * * * * *

長さん、安らかにお休みください。

僕らにとってあなたは父親でもあり
先生でもある、あまりにも大きな存在でした。

勝手なお願いが許されるなら、
僕があの世に行った時に
新作コントを溜めまくってくれてたら最高です。

大人になるのもワクワクしたけど、
それならそっちへ行くのも怖くないです。

でも次に会うのは、あなたみたいに
すげーカッコいい事をやってからにしたいです。

本当にありがとうございました。

  2004年 春      大ファンより。







【注】追悼文は、よっぽどの事がなければもう書きません。
   今回は、別格中の別格です。
   載せたい写真は山ほどありましたが、敬意をもって肖像権に考慮し割愛しました。

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